赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 56~60
「わけてもらった、かつお節のお礼だ。
あれだけ有れば登山客たちに、うまい味噌汁をたっぷり提供できる。
お礼に、イイデリンドウを形どった登山バッジを上げよう。
山小屋か、避難小屋でしか販売していない限定品だ。
今朝出来上がったばかりだ。
麓から届いたばかりのホヤホヤさ。
時間が経ったから残念ながら、もう湯気は出ていないがね。あっはは」
手を出しなと、ひげの管理人が笑う。
ほらと恭子と清子の手のひらに、イイデリンドウを形どった登山バッジを、
大事そうに乗せてくれる。
『ありがとう、おじさん。必ずまた、2人でやってきます!』
登山バッジを受け取った清子が、息を弾ませて答える。
「おう。また来いよ。
初夏もいいが飯豊山の秋の紅葉も、最高だ。
また来てくれ。
あんたの胸ポケットの中にいる、三毛猫も一緒にな。
気をつけていけよ。下りとは言え、最後まで油断は禁物だ。
そういえば、500mほど下ったところにあるヒメサユリの群落はもう見たか。
ニッコウキスゲも咲いているはずだから、今頃がちょうど
見頃のはずだ」
「実はそこが、今回の私たちの一番の目的地なんです。
楽しみは最後までとっておこうということで、今日に残しておきました。
下りながら、これからそちらを満喫していきたいと思います」
『そうさ。真打ちってやつは、いつでも一番最後に登場するもんだ』
ヒヒヒと笑ったたまが、そのまま、耳のうしろを洗いはじめる。
『あれ、こいつ。耳の後ろを掻き始めたぜ・・・』
ヒゲの管理人が雲ひとつ見えない、透き通った青空を見上げる。
『雨が降るようには、俺には見えないがなぁ・・・・』
晴れ渡った青空を、ぐるりと見回す。
「晴れ渡っているとは言え、山の天気はひと時も油断できねぇ。
猫が顔を洗いはじめるのは、雨がやってくる前兆と言われているからな。
ヒメサユリの花を見学したら、天気が崩れる前に早めに下の小屋まで、
下ったほうが無難だろう。
じゃあな。本当に気をつけていくんだぜ。ベッピンのお2人さん」
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 56~60 作家名:落合順平