赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 56~60
「たまも居ることです。
いちばん楽なルートの、下段の道を行きましょう。
ただし。下段の道には、怖い言い伝えが潜んでいるから要注意です。
無間(むげん)地獄に通じる、『口無し穴』が、あちこちに開いています。
この穴は目に見えないものなので、聞かれても説明のしようがない。
御秘所という名前も、この見えない穴に由来している。
落ちれば、生きて再びこの世に帰れないという、神隠しの穴です。
ここを無事に通過できれば、品行方正が証明されます。
ただし。行いの正しくない者は、神隠しに会うか、天狗に
さらわれてしまいます。
通過できない者は、一生村八分にされるという掟もあります。
いずれにしてもここを通過するには、とてつもない勇気を必要とします」
「口無し穴から落ちて、無間(むげん)地獄へ着くと、
そこでは、いったい何が待っているんですか?」
「あるのは、8番目の地獄。
数ある地獄の中でいちばん恐ろしいと言われている。
それが、8番目の無間(むげん)地獄だ。
間断のない苦しみに常に責め苛まれる地獄、という意味がある。
ここでは、それまでの七つの地獄の苦しみを合計したものの千倍以上の
苦しみを味わうと言われている。
8番目の無間地獄に堕ちて苦しむことに比べれば、それまでの7つの地獄は
天国みたいなものだと、古い書物に記されています」
『あらら。大変ですねぇ。たま、くれぐれも口無し穴に落ちないよう、
気を付けて行きましょうね』
『へへん。気をつけるのはお前だろう、清子。
オイラはこうして、清子の懐に入ったままだ。
悔しいが手も足も出せねぇ。
でもよう、頼むから落ちないでくれよ。
愛しいオイラのミイシャと、念願の一発をやるまでオイラは絶対に、
死んでも死にきれねぇ・・・』
『そう言う不謹慎な発想が、災難を呼び込むんだよ、たま。
あっ、お前のための落とし穴が、たったいま、あたしの足元に見えました!』
『嘘をつけ清子。
いいからさっさとこんな危ない場所は抜けて、とっとと神社にお参りして
すたこらさっさと帰ろうぜ。
たのむぜ、まったく。こんな石ころだらけのところで遭難したくはねぇ!』
(60)へつづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 56~60 作家名:落合順平