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STEP ONE(雷華シリーズ)

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 久々に バイトも練習も入っていない日曜日、ゆっくりと眠って目が覚めたらすでに昼を過ぎていた。土曜の晩は稼ぎ時のスナック経営者のオフクロさんはもっとゆっく り眠っているようだった。


「しょうがねぇから何か作っておいてやるかね」


 俺一人の分だけメシを作ったりしたら後から絶対うるさいんだよな、アイツ。
 冷蔵庫の中にはあんまりちゃんとした材料はなくって、でも買い出しにいくのも面倒くさいから玉葱と人参と卵のチャーハンを作って、あとはインスタントの カップスープ。まあ、材料があったって他に大した物は作れないけど。


「あ、ゴハンできてる。ラッキー」

「…ラッキーじゃねぇよ。できてるんじゃなくって俺が作ったんでしょ。ハハオヤでしょうが、アンタ」

「ハハだよー。産んでやったじゃない。苦労して産んでやったのにゴハンくらい作ってくれてもいいじゃん」

「じゃん、じゃねぇっての。何歳だよ、かーちゃん」

「美女に年齢は関係ないのよー」


 …バカ母。

 メシの用意ができるのを待っていたとしか思えないタイミングで現れた茶髪のオバサンは俺の母親だ。

 俺、コイツに育てられたにしてはまともに育った方だよな、絶対。

 うちは母子家庭だから、オヤっていうとこれ一人しかいない。でも、この母がまた馬鹿なんだよ。まあ、色々苦労して育ててくれたんだろうけどさ。

 俺が何か問題を起こしても、俺が見ている前で泣いたりはしないんだと思う。馬鹿母なりのプライドで、俺を馬鹿だって笑うだろう。


「そうだ。たぁくんさー」

「たぁくんじゃねぇよ。俺を何歳だと思ってんだよ」

「いいじゃない。自分の子供をなんて呼ぼうがー。小さい頃は自分のことたーくんねーって言ってたくせに」

「あーあー、そうかい。何だよ」


 んなチビの頃なんて知るか、馬鹿。


「昨日さぁ、たぁくんバイクで世間様に迷惑かけに行ってた間に、津島くんって子から電話あったよ」

「別に迷惑かけに行ってるわけじゃねーって。…あ?」

「だーかーら。津島くんから電話あったって」

「お前、メモくらいしとけよ」

「お母さんは仕事中だったもん。でも、アンタの友達にしてはちゃんとした子だよねー。夜分失礼致しますってちゃんと言ってたもん」


 悪かったね、馬鹿な友達多くて。そりゃあ、アイツは大人だもん。言うだろうよ、それっくらい。社会人だぞ、相手は。高校生のヤンキー共と比べてんじゃ ねぇっての。
 常識で考えろよ。頭悪すぎ。


「何か用件言ってた?」

「戻られましたら電話してくれるように伝えて戴けますか?」

「…伝えろよ、お前ーっ」

「伝えてるじゃないよー」


 いい加減にしろよ、ババァ。
 俺のダチよりお前のが電話の応対できてないんじゃねぇのか。本当にこれ、大人なのかよ。

 …一体、何の話だろうなぁ。
 バンド抜けろ、とかだったらやだな。


「もしもし。俺、卓弥だけど」

「ああ。練習でもないのに悪いね」

「それはいいけど、何?」

「電話じゃあ話しにくい事だから…卓弥、今から俺の家まで来れる?」

「行けるけど。バンドの事?」

「いや、まぁ、来て貰ってから話すわ。あの、優吾も来るから」


 おいおい。マジでやだなぁ。
 他の連中ならまだしも、真矢と優吾って最初っから一緒にやっている連中じゃんよ。あいつらに抜けろって言われたら、俺、それまでじゃん。
 結構、気に入ってんだけどなぁ、あのバンド。


「でかけて来るわ」


 オフクロにそれだけ言うと単車出して来て真矢の家まで行った。前に二回程行った事があったんで、道は分かってた。


「早かったな」

「優吾は?」

「や、奴はもっと後から来るよ。…奴が来る前に聞きたい事があってさ」

「…何?」


 真矢が出してくれたビール呑みながら、俺は適当に床に座り込んだ。言いだしにくそうにしている真矢を見ているのが何となく嫌だったけど、目を反らすのは もっと嫌だったから、睨み付けるみたいになってたかもしれないけど、見てた。


「…優吾の事なんだけど…」


 やっぱな。


「あいつ、俺の事、嫌なんだろ。この前聞いてたから知ってんよ。でも、だったら何だよ」

「いや、それ、誤解なんだけど」

「何がよ。人が居ないトコで、あんなこと言っててさ。はっきり言えばいいじゃねぇか」

「や。あいつ、あの図体でも結構繊細な部分あんだよ…っていうか、あの、あいつにも苦手な話ってあって」

「何がよ?」


 いらいらする。俺ははっきりしないの嫌なんだよ。
 大体、成人している男がグダグダと…。
 言いたい事はさっさと言えっての。


「…卓弥、ずっと東京?」


 はぁ?


「東京生まれ?」

「んにゃ。産まれたんは北海道だけど。それが何の関係があんだよ。言葉濁してないで、さっさと本題に入れよ」


 俺がそう言うと、真矢は自分の手に持っていたビールを一気に口の中に叩き込んで、しくじったな、もう、とつぶやいた。よく見てみたら、俺が来るよりも前 から呑んでいたみたいだった。
 本当、冗談じゃないよ。何で俺がこんな…、とか何とかブツブツ言ってる。


「これが本題なの。…素面で聞けるかって」

「本題? バンドの事じゃねぇの?」

「バンドの事だったらさっさと言うけどな。完全に、俺の領域じゃない事なのに、アイツ、自分じゃ聞けないっつうからさぁ…」

「何よ?」

「プライベートに踏み込んで悪いんだけど…お前のオフクロさん、離婚した事ある?」


 はぁ?
 何か、変な話になって来たなぁ。オフクロの離婚が何でこいつらに関係あんだよ。別に聞かれて困る話でもないけど、何なんだよ、もう。


「あるよ。俺は覚えてないけど」

「…田坂…優吾も北海道出身なんだよ。んで、奴がガキん頃親が離婚しててさ。まだ奴が六歳とかの頃だったらしくて、オフクロさんの名字とか知らないみたい なんだけど…三つ離れた弟がいたらしいんよ」

「…は?」

「んで、優吾はそれがお前じゃないかって、思ってる。でも、やっぱ、聞けないらしくて。結構、トラウマってる部分もあるから。本当は俺なんかが言う事じゃ ないんだけどさ、やっぱり、ダメみたいだから」


 …ちょっとまて。
 何だって?
 弟? 俺が? 何で?