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STEP ONE(雷華シリーズ)

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「佐高さん、遅いっすよぉっっ」


 チームの連中が集まるって言うから、バンドの練習やって秋とちょっとバーガー食って、それから楽器屋のバイトまでこなしてから顔を出したらいきなり一つ 年下の伸二に苦情を言われた。

 伸二って奴は何だかしらないけど、チームの連中の中でも俺の後ろを佐高サン佐高サンとやたらとまとわり付いてくる奴だった。慕ってくるのが嫌なわけはな いけど、うっとうしい事もあった。


「うるせえよ」


 一発ゲンコツをくれてやったら、えへへ、とか嬉しそうにするから、気持ち悪い奴、と言って俺も笑った。

 俺は群れるのって嫌いじゃない。

 お互いの事を詳しく知らない者同士で肩を寄せ合って楽しんでいる感じも好きだった。

 そういうのが不快に感じる人間もいるのは知っているけど、ガキなんてそうやって自分の居場所を探していくものだって思っているから。

 まあ、こうやっている人間の中に、変に世間がどうのとか大人がどうこうって言う奴がいるのには閉口するけど。

 俺は、こういうのが楽しいだけで、世の中に対する不満なんかない。学校も朝起きるのが面倒だと思う事はあっても嫌いじゃないし、その場所その場所に楽し さってあると思う。

 それを楽しもうともせずに文句だけ言っているのは卑怯だって思うから。
 大体、俺達は子供で大人の事情なんて分からないから、大人に文句を言う資格なんてない。

 まあ、親に代表される大人全般に向かって不満をアピールするデモンストレーションだって言う奴も多いんだろうけど、ちゃんと、それを大人に公表している んだったらまだ納得できるんだけど、親とかいう自分の周囲の人間には秘密にして自分とは接点さえ無い人間にだけアピールっていうのは何か違う気がするんだ けどなぁ。

 ちなみに、ウチの親は知っている。

 でも、俺と親とは変に友人関係みたいだから、これについて何か言ったりはしない。他人に怪我させるな、とか、警察に捕まるな、とは言うけど。


「佐高さん、最近、何やってんですかぁ?」

「バンド。新しいバンドに加入したんだよ」


 ああ、ひどい。バンドが始まったら俺達の事は捨てるんだぁっとか伸二が騒いでいるが、無視。コイツは相手をしてやると本当にいつまでも続けるから。


「何か、たまんねぇよ。久しぶりに家に帰ったら、オフクロ、泣いてんだぜ。親父は俺がこんな風に育ったのはお前のシツケがなっていないからだ、とか言って オフクロを責めるしさ」

「泣かれるのって、たまらないよな」

「親父はいつだってそうなんだ。自分は悪くないんだよ、アイツ」


 そんな風に言っている奴がいる。

 酷いのかもしれないけど、俺は、馬鹿みたいだと思う。

 親父がオフクロを責めてるのがかわいそうだと思うなら、どうしてテメェは家でオフクロ守ってやらないんだって。

 オヤジがいつだって自分は悪くないって思っているんだったらお前はチチオヤに似たんだなって言いたい。

 ま、ウチはオヤジがいないから、奴等の気持ちは分からない。

 ただ、馬鹿だなって思うだけだ。


 色々と考えながらバンド内をみていると、やっぱり色々ありそ うだった。今まで全く気付かない俺も鈍いのかもしれないけど、うまく覆い隠してやっているって感じが強い。俺自身は好きとか嫌いとか言える程付き合ってい ないから何とも言えないんだけど、全員で仲がいいとは言えないバンドだった。

 バンドと友達って別物なんだろうか?
 ガンッと頭殴られた感じだった。

 今まで気の合った奴とお遊びみたいなバンドしかやった事なかったから、そういう関係性って自分の中には無かった事だったんだ。

 一瞬、優吾と目があったけど、すぐに反らされた感じだった。露骨に避けられたってわけでもないけど、多分、避けられたんだと思う。真矢が優吾の方を向い て、何か言いたそうにしたけど、止めたみたいだった。


「何か、音、遅いよ」

「遅くないよ。努が走り過ぎなんだよ」

「また、俺なわけ?」

「そうじゃないだろ。何でそういう取り方すんのさ。楽器はテンポ合ってるじゃん」

「だから、それが遅いって言ってんだよ!」

「曲のテンポ速めたいわけ?」


 努の苦情に対して真矢が冷静に返事しているけど、秋がちょっと顔しかめてた。普段は分からない程度の表情の変化だったけど、一回完全にしかめた顔を見た ら、こういうのがコイツの不快な時の顔なんだなって分かった。

 こうやって、他人を知っていくのは嫌いじゃない。

 人間、すぐに他人なんか分かる訳がないから、少しずつ、知っていく。それが、俺には楽しい。


「速くすんのか? それだとガチャガチャした印象になんじゃないの?」


 優吾がスティックで小さくシンバル鳴らしながら意見を述べる。それから、お前はどうなのって俺の方に目で尋ねてきた。でも、俺にとっては曲の印象どう のって事よりも、自分が弾けるのかって事の方が問題だった。

 曲自体が凄く難しいから、速めるって出来るのかって事が。


「ま、やってみるだけでもやってみようか」


 真矢はなんか疲れた感じのため息をついて優吾にカウントを促した。
 やってみて、冗談じゃねぇや、と思った。