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臆病なシンデレラ~アラサー女子。私の彼氏は17歳~

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 早苗は無理に笑顔を作り、湯気の立つカップを差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう」
 祐はカップを皿ごと受け取り、瞳を煌めかせて言った。
「良いなぁ、早苗さんと毎日、こんな風に暮らしたら楽しいだろうな」
 早苗は微笑み、室内を見回した。
「外は冷え込んでるのに、ここは随分と温かいのね。暑いくらい」
「暖房が効きすぎてるんだろう」
「ビルそのものが古いから、空調設備も自動設定でしか動かないのね」
 早苗は肩を竦め、羽織っていた厚手のニットを頭から脱いだ。
「ああ、暑い。汗をかきそうよ」
 そのときだった。
「早苗さん、こういう時、そういうことを言うのって、誘ってると思われても仕方ないかもよ?」
 間近で祐の声が聞こえ、早苗は飛び上がらんばかりに愕いた。
「別に誘ってなんか」
 言いかけて、口をつぐむ。早苗は唇を少し嚼み、顔を上げて祐を見た。
「もし、そうだったら?」
「え?」
 祐にすれば、いつものように早苗をからかうつもりだったに違いない。けれど、今日の早苗は違う。これが最後だから、祐とは一生忘れられない想い出を作るために、ここに来たのだ。
「祐さんが望むなら、私は構わないから」
 その台詞を言うのには随分と勇気が要った。ましてや、直接的な言葉で彼を誘うなど、早苗には百年後もできそうにはない芸当だ。
 祐の頬がうっすらと上気した。
「おいで」
 彼は早苗の手を取り、王子さまが姫を案内するような恭しい態度で早苗をベッドに座らせた。彼はジーンズのポケットから小さな箱を取り出した。緑色に深紅のリボンが可愛らしくかかっている。
「開けてごらん」
 渡された小箱のリボンを解き箱を開けると、現れたのは指輪だった。明るい照明を受けて、小さな指輪がキラキラと輝きを放った。
「綺麗」
 早苗も若い女性だから、人並みに美しいものには惹かれる。華奢な指輪で、リボンと靴がデザインされ、蝶結びの部分に蒼い石、ハイヒールを模した形にはダイヤモンドがはめ込まれている。
「蒼いのはブルートパーズかしら」
「俺は宝石なんて、よく判らなかったから、店の人に相談したんだよ。早苗さんの雰囲気とか伝えて、似合いそうなものに決めた」
「ハイヒールって、珍しい形ね」
 祐の美麗な面に悪戯っぽい微笑が浮かんだ。
「この間、早苗さんの好きな歌が?シンデレラ?のエンディング曲だって聞いただろう。あれを思い出してさ。彼女がシンデレラが好きみたいだって言ったら、丁度、有名なジュエリーメーカーがシンデレラをイメージして作ったリングの新作が入ったばかりだと出してきてくれて」
「でも、こんな高価なものを頂くわけにはゆかないわ」
 早苗が当惑の表情で見返す。
「そんなに言うほどのものじゃないよ。バイト代で買ったものだし」
「ええっ、S電器の社長がバイトをしてるの?」
 日本でも一流の企業の社長がバイトというのがどうも想像がつかず、早苗が笑う。
 祐が頬を膨らませた。
「だから、形式だけって言っただろ。実質的な経営はお袋と叔父がやってるんだよ。俺は名前だけ。たまに下から上がってくる書類を見て社長印を押すくらいのものさ。小遣いだって知れてるし、普通の高校生と変わらないぜ。だから、F駅前の商店街のホカ弁屋でバイトもしてる。これでも勤労学生なのさ」
 屈託なく笑う顔は、やはりまだどこかあどけない。彼と自分の年齢差を感じるのは、こんなときだ。もう三十を過ぎた自分は間違っても、こんな表情はできない。
「そうなんだ。あのお弁当屋さんは安くて美味しいというんで、私の会社の人もお昼にはよく買いにいくのよ。私も行ったことがあるけど、祐さんはいなかったわね」
「シフト制だから、早苗さんが来たときは、たまたま俺が出てない日だったかもな」
 早苗は祐を見つめた。
「お小遣いが普通の高校生並みで、よくお昼寝メイトなんて利用できたわね」
 祐が頭をかいた。
「貯金をはたいたんだよ。正直、痛い出費ではあったなあ。マ、どんなものか試してみて期待薄なら、次はないと思ってたから」
「それで、貯金をはたいた効果はあった?」
 笑いながら言うと、祐は真顔で頷いた。
「大ありだった。可愛い子にも出会えたしね」
 直裁に言われ、早苗の方が頬が熱くなる。
 頬を紅くした早苗の前に、祐がスと膝を突いた。呆気に取られる彼女の前、祐は指輪を取り上げ、改めて早苗の左手の薬指に填めた。
 祐が予め早苗のサイズを知っていたかのように、指輪はぴったりと指に収まった。
「結婚を前提に付き合って欲しい」
 早苗は息を呑んだ。これがプロポーズであることは理解できた。
「―」
 早苗は応えるすべを持たなかった。こんな場合、どう言えば良いのだろう? 別離を覚悟してきた場で求婚されるなんて。
 しかも、相手は自分より十三歳も年下の高校生で。
 刹那、先ほどの鈴木の声が聞こえたような気がした。
―人を好きになるのに、言い訳なんてありませんよ。男と女であれば、誰にだって恋に落ちる可能性はあるんです。
 そう、確かに恋に落ちるのに理由なんて要らない。
 でも、恋に落ちたからといって、物語の結末がいつもハッピーエンドになるとは限らない。
「私も祐さんが好き」
 その短い言葉だけで十分だった。祐が早苗の傍らに座り、きつく抱きしめられる。自分から腕を回して祐に抱きつきながら、早苗は固く眼を瞑った。
 せめて今、この瞬間だけは彼を独り占めさせて下さい。今日という日が終わったら、私は潔く彼を忘れるから。
 早苗の固く瞑った眼から、ひとすじの涙が糸を引いて流れ落ちた。

 静まり返った室内は、まるで深い湖の底のようだ。満ちたしじまの底を這うひそやかな衣擦れやあえかな息遣い。
 ダブルベッドで絡み合う二つの影。
 淡いベージュのカーペットを敷き詰めた床には、透けるような薄いスリップとお揃いのブラジャー、ショーツが乱れ落ちている。
 祐に組み敷かれた状態で今、早苗は彼を無心に見上げていた。
 祐が顔を近づけ、コツンと早苗の額に軽く額をぶつけた。
「本当に良いのか?」
 早苗は何も言わず、彼の眼をしっかりと見つめ返して頷いた。たとえ言葉はなくても、彼はきっと、この無言のメッセージをきちんと受け止めてくれるはずだ。
「判った」
 祐は微笑み、早苗のすんなりとした両脚を大きく開かせ、片脚を持ち上げて自分の肩に乗せた。既に彼によって与えられた入念な愛撫によって、早苗の秘められた狭間は十分に潤い、朝露を帯びた薔薇のつぼみのように艶やかに濡れ光っている。
「なるべく痛みを与えないようにするけど、もし、どうしても我慢できなかったら言って」
 早苗が頷くのを待っていたかのように、熱い肉塊が侵入してくる。
「―っ」
 あまりの衝撃に、早苗の華奢な身体が跳ね上がった。
 早苗は声を洩らすまいと、手のひらを唇に押し当てる。秘所を貫く剛直が少しずつ奥へと進む毎に、鋭い痛みが増していった。
「ぁ、ああっ」
 とうとう堪え切れず悲鳴を上げてしまう。
「大丈夫?」
 祐が早苗の眼尻に堪った涙の滴を指で掬い取った。
「私なら大丈夫だから、気にしないで」