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臆病なシンデレラ~アラサー女子。私の彼氏は17歳~

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「何故、農学部なの?」
「果樹園をやりたい」
「果樹園と電器会社の社長の両立は、難しいのかしら」
「そりゃ、趣味っつうか、お遊び程度なら両方できないこともないかもしれない。でも、俺は遊びじゃなくて真剣にやりたい」
「―」
 黙り込んだ早苗の髪を撫で、彼は熱っぽく続けた。
「叔父はまだ若いんだ。俺が無理に社長になって跡を継がなくても、叔父が今までどおり社長になってS電器をもり立てていってくれれば良いのに、お袋が承知しないんだよ」
 それはそうだろう。彼が五歳といえば、母親も若かったはずだ。若くして頼るべき夫を失い、幼い息子を育てながらS電器ほどの大企業を維持してきた母親は相当苦労したはずである。
 息子が立派に成人した今、長年、社長職にあったとはいえ、義弟にその座を渡す気にはなれないだろう。
「お母さまの気持ちは、私には判るような気がする」
 早苗はポツリと言い、かすかに身をよじった。彼が自由にしてくれたので、半身を起こす。今度は早苗が彼を見降ろす形になる。
「私の実の父はまだ元気なの。私が五歳の時、事情があって家を出ていったわ」
「君もお母さんも苦労したね」
 労るように言われ、早苗は首を振る。
「それなりの苦労はしたかもしれないけど、母がすぐに再婚したから」
「その再婚相手というのが義理のお父さんだね」
「そう」
 早苗は頷いた。
「いちばん苦労したのは多分、義理の父だと思う」
「さっきさ、君からバースデーのサプライズプレゼントを貰った時、凄く嬉しかった。君からというのももちろんだけど、生まれて初めて貰ったプレゼントだから」
「嘘でしょう? S電器の御曹司が誕生日も祝って貰えないなんて」
「本当だよ、別に君の気を引こうとか同情して貰おうとか思って嘘なんかついてない」
 早苗はフフっと笑った。
「私は実の母には祝って貰ったことはないけれど、義理の父には何度か祝って貰ったの。小さなケーキを義父が買ってきて、歳の数だけローソクを立てて。母は妹の教育に熱心で、私のことなんて眼中になかったから」
 不覚にも声が震え、涙声になった。
「義父がいたから、人並みの家庭、人間らしい幸せを知ることができたんだと思う」
「君にとって、お義父さんは大切な人なんだ」
「そうね。かけがえのない大切な人だわ」
 心の底から言うと、彼の黒瞳がじいっと見つめている。
「だけど、君にも彼氏とかいるだろ。そうじゃなくても、いずれ結婚とかしたら、旦那がいちばん大切な男にならないのか」
 早苗は自嘲めいた笑いを刻んだ。
「彼氏なんているはずないでしょ。いたら、こんなバイトはしないわ」
 その言葉に、彼がむくりと起き上がった。
「そっか、彼氏いないのか」
 何故か嬉しそうにはしゃぐ彼を早苗は不思議そうに見つめた。
「君は可愛いし、てっきり彼氏がいるのかと思った」
 見つめられて頬を上気させる彼に、早苗は気になっていたことを訊ねた。
「ところで、あなた、私が何歳だと思ってる?」
「うーん。二十三歳くらい?」
 途端に早苗は吹き出した。
「何だよ、人が真面目に応えてるのに、笑うことないだろ」
 彼は本気で怒っている。早苗は笑いながら謝った。
「ごめん、随分若く見てくれてたから、愕いたのよ」
 彼が当惑の表情を浮かべる。
「違うのか? じゃあ、二十六歳、いや、七かな」
「残念、外れです」
「えーっ」
 早苗は彼から視線をそらした。
「三十一よ」
「嘘だろ」
 その言葉には傷ついた。早苗はうつむき、ひっそりと笑う。
「隠してたわけじゃないのよ。ただ、あなたがあまりに若いから、言い出しにくくて」
 と、彼が真っ赤になった。
「違う、君は何か勘違いしている。俺は別に君の実年齢を知って、どうこう思っちゃいないよ。人を好きになるのに、歳とか関係ないし」
 その言葉に、早苗も彼も固まった。
「いや、ホントは何ていうか、もうちょっとお互いを知ってから告白しようかと思ってたんだけど。全然カッコ良くないな、俺」
 彼が首を振った。
「でも、この際だから、告白します。俺は君のことが好きになったみたいだ」
 早苗は眼を見開いた。
「冗談でしょう。私とあなたは十三歳も歳が離れているのよ。しかも、女の私が年上。皆の物笑いになるし、第一、上手く行きっこない」
 彼が語調を強めた。
「どうして、そんな風に決めつけるんだ! 歳が離れているカップルなんて、芸能人にも世間にもごまんといるじゃないか」
「あなたは、これから高校を卒業して大学も行かなくちゃならない。そして、いずれは、お母さまの期待どおり、名実ともにS電器の社長になる。十三も年上の女と拘わってる暇はないの」
 それに、それにと、早苗は彼の告白を断る口実を探し続ける。
「私たち、お互いの名前さえ知らないのよ。知り合って二度めなのに」
「好きになるのに歳なんて関係ないのと同じじゃないか。知り合うのは、これからで良い。俺の名前は佐内祐(さないたすく)。私立明蘭高校三年、これで良い?」
「そういう問題ではないの」
 じわりと熱い滴が眼尻に溜まる。祐が狼狽えた声を出した。
「泣かないでくれよ。俺はこの間も君を泣かせて自己嫌悪に陥ったんだぜ。また今日も同じことの繰り返しじゃ、立つ瀬がないよ」
 情けない声を出し、優しく問いかける。
「君の名前は何ていうの?」
「津森早苗」
「さなえ、早苗さんっていうのか」
 祐は嬉しげに言い、ぴったりだと早苗に微笑みかけた。
 いきなり手を引かれ、その場に押し倒される。のしかかってきた祐がふわりと、笑った。
「早苗、早苗さん。君にぴったりの名前だ」
 祐の手がシルクのパジャマの襟元にかかった。ボタンはきっちりと一番上まで填めていたのに、一つ、二つと器用に外してゆく。
「何を」
 抗議しようとした早苗の唇をそっと祐の唇が掠めた。
「黙って。これ以上はしないから」
 二つ目のボタンまで外せば、ちょっと襟元を開いただけで、胸の上部は殆ど露わになる。スリップは脱いだので、下からはブラに包まれた豊かな胸が覗いた。
 祐は壊れ物でも触るかのように慎重な手つきで早苗の肌に触れた。淡いピンクのブラジャーから零れ出た胸の上を彼の手のひらがすべる。感触を確かめるように撫でていた手は次第に大胆になり、大きな手がそっとブラごと胸のふくらみを包んで優しく揉んだ。
 先端の辺りを指で押し込まれるようにされれば、触れられたわずかな箇所から形容のしがたい痺れが全身に走る。
 アラサーの早苗より、十八歳の祐の方がよほどこういったことに手慣れているのは衝撃でもあり哀しかった。祐は間違いなく女性経験がある。しかし、それを口にするのは祐にも失礼だし、何より自分自身を否定するような気がして、口にできるはずもなかった。
「早苗さん、早苗さん」
 祐は早苗の胸の露出した肌にそっと顔を近づけた。素肌を熱い唇が這う感触に、早苗は無意識の中にあえかな声を漏らす。
 祐の手が邪魔なブラを外そうとするのに、早苗は懸命に彼の手を押さえた。
「これ以上は駄目」
「判った」
 頷いた祐の瞳が悪戯っぽく煌めく。ブラの上から胸の先端を熱い口中に含まれ、早苗は悲鳴を上げた。
「―ぁあっ」