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臆病なシンデレラ~アラサー女子。私の彼氏は17歳~

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 と、頷いた。続いてメールには早速、仕事の依頼をしたいので、指定された日時にその場所に来て欲しいと書いてある。サイトの説明に?副業としても可?とあったとおり、指定されたのは週末だった。
「とりあえず一度やってみて、断れば良いわ」
 後はもう、その胡散臭いバイトのことは忘れてしまい、メールの山の中に中学時代からの友人の懐かしい名前を見つけ歓声を上げた。

 その日は十一月に入って最初の日曜日だった。指定場所はH駅付近の雑居ビル。H駅は尚吾と交際していた間は何度か降り立ったが、彼と別れた今、二度と降り立つことはないと思っていただけに複雑だ。
 雑居ビルはいかにも古そうな昭和の建物といった雰囲気を漂わせていたが、内装は意外と綺麗で、待ち合わせ場所となった二階も赤い絨毯が廊下に敷き詰められていた。カーペットも比較的新しいもののようだ。
 進行方向に向かって右側が窓、左側に鉄製のドアが幾つか並んでいる。その中の一つに?有限会社 フローラ?と印刷されたプレートが掲げられていた。どうやら、ここらしい。
 ドア脇にインターフォンらしいものがあるので押せば、すぐに応答があった。
「今日、お約束している津森です」
「あ、ご苦労さまです」
 男性の声が聞こえ、ドアが開いた。
 出迎えたのは、中肉中背、どこにでもいるような男性だった。三十代後半くらいだろうか、丸顔にメガネをかけている。傍らに彼よりは少し年上らしい女性がいた。スーツ姿の男性とは裏腹に、女性はニットセーターとズボンというカジュアルな装いだ。
「お世話になります」
 早苗が頭を下げると、男がまず名刺を差し出した。
「私、フローラの関西地区担当、鈴木敬二と申します。こちらが」
 女性側を手で示すと、女性が一礼する。
「津森さんのマネージャーをさせていただく木内と申します」
 同様に名刺を差し出され、早苗は唖然とした。
「マネージャー?」
 芸能人でもないのに、マネージャーがつくというのも不自然だ。
「マネージャーが必要なんですか?」
 と、木内と名乗った女性がやわらかく笑んだ。
「やはり、こういったデリケートなお仕事は同性のフォローが必要でしょう?」
 そのひと言に、更に不安が募る。?デリケート?な仕事とは非常に微妙な言い回しではないか。やはり、見ず知らずの男性に添い寝するなど、危ない仕事以外の何でもなかったのだ!
 早苗は一端座った椅子から立ち上がった。小さな机を挟んで向かいに座った二人は呆気に取られている。
「あの、私、やはり、このお仕事には向かないようなので、お断りします」
 説明には、添い寝のときはパジャマかラフなくつろいだ格好と書いてあったけれど、実際は裸になるのかもしれない。もしかしたら、透け透けのベビードールなんて着せられるのかもしかれない。
 最悪の想像が頭をよぎった。
 焦る早苗の胸中を見透かしたかのように、鈴木が穏やかな口調で言った。
「待って下さい。何か勘違いされているようですから、最初にお断りしておきますが、この仕事は、あなたが考えているようないかがわしいものではありませんよ」
 早苗は再びストンと腰を下ろした。
「風俗ではないのですか?」
「はい。その点は大丈夫です」
 鈴木が頷く。
「本当に横で眠るだけで良いと?」
 念を押せば、鈴木は大きく頷いて見せた。
「それに、急に帰ると言われても、我々も困るのです。これから続けるかどうかはもちろん、津森さんの気持ち次第ですけど、今日は既にお客さまが別室でお待ちなので」
「いきなり?」
 素っ頓狂な声を上げてしまい、赤面する。
「お支払いは、お仕事をすませた後、この部屋で現金でお渡しします。それでは」
 鈴木が顎をしゃくり、木内が立ち上がった。
「それでは、お部屋にご案内しますね」
 木内に案内されて部屋を出て、廊下を少し歩く。
「二階はすべて我が社が貸し切っています。お仕事をして頂くのは、こちらになります」
 先刻の部屋からドア二つ先の部屋の前で止まる。
 木内が言い添えた。
「サイトにもあったように、これは風俗営業ではありません。ただ、サービス内容はあなた次第という面もあります」
「それは、どういう意味ですか?」
 木内は頷いた。
「風俗ではないので、あくまでもお客さまの隣に横たわって添い寝するだけ。それが基本です。お客さまには身分証明書も提出していただいていますし、規定で、メイトの女性にの身体には同意なしに一切タッチはなし。その他、セクハラと見なされる発言や行為は厳禁とお伝えしています。その規約に同意の上、申し込まれているので、大丈夫です」
 早苗はおずおずと訊ねた。
「同意があれば、触っても良いのですか?」
 木内が笑った。
「それは、あなたが同意されれば、私たちが関知するところではありません。私たちは、ただメイトの女性が不愉快な想いをしないように女性を保護する必要最低限のお約束をお客さまにお守りいただくだけですもの」
 木内が微笑んだ。
「それでは、よろしくお願いします」
「あ、あの」
 去ろうとする木内を早苗は呼び止めた。
「パジャマとかに着替えなくて良いのですか」
 パジャマはないので、部屋着のトレーナーとズボンを持参している。
「それは、お客さまのご要望をお聞きして下さい。部屋に衝立がありますので、その向こうで着替えていただければ結構です」
 随分と良い加減だと呆れている間に、木内は元の部屋へと戻ってしまった。
 一人放り出され、早苗は途方に暮れた。
―二度とこんな仕事、するもんですか。
 やはり、見知らぬ男性に添い寝などと、幾ら報酬が良くても避けるべきだった。とりあえず今日のところは適当にやろうと、ドアを軽くノックしてみた。
 短い沈黙の後、男性の声と共にドアが開いた。
「あの、私」
 言いかけた早苗を上から下まで見て、若い男が頬をゆるめた。
「もう一時間も待たされたんだ。まさか料金だけだまし取られたんじゃないかと思ってたんだけど」
「ごめんなさい。私、時間は一時からと聞いていたので」
「俺は十一時半って聞いてたけどね」
「一時間半も待ったんですね。本当、ごめんなさい」
「君が謝ることじゃないよ。時間を決めたのは君じゃないんだし。とにかく中に入って。こんなところで立ち話も変だから」
「は、はい」
 早苗は急いで中に入った。室内は先刻の殺風景な部屋とはガラリと様相が違う。まるで、どこかのホテルのスイートかと思うような、淡いベージュで統一された部屋だ。入ってすぐに狭いスペースがあり、靴脱ぎ場になっている。
 そこはカーテンで遮られており、部屋の中は見えないようになっていた。カーテンの向こうはベージュに赤い小花が散った壁紙で囲まれ、厚地のカーテンが垂れた窓脇にダブルベッド。奥まった一隅に簡易応接セットが配置されている。灯りはシャンデリア風だし、小さな冷蔵庫まであった。
 木内の言うように、ベッドの下方に小さな衝立がある。レース地の洋風で、薄い生地を幾重にも重ねているため、着替えが透けて見える心配はなさそうだ。
 ガラスの丸テーブルの上には、陶製のポットと紅茶、繊細なティーカップが準備してある。
 しばらく手持無沙汰にしていた早苗は、救いを見つけたように言った。