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臆病なシンデレラ~アラサー女子。私の彼氏は17歳~

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 やってみても良いと考えたのは、我ながら魔が差したとしか言いようがない。気が付けば、早苗は?応募・連絡先?と書いたバナーをクリックしていた。
 画面が変わり、応募要項記入欄が出てくる。早苗はメルアド、名前や生年月日、携帯の電話番号など必要事項を記入し、確認してから最後に送信ボタンを押した。
―ご応募、ありがとうございます。後ほど、担当者から連絡させていただきます。
 メッセージが出て、終わった。早苗はまたトップページに戻った。どうやら、このサイトは他にも色々な仕事を紹介しているらしい。?読み聞かせメイト?は、官能小説を男性客に朗読する仕事、?お散歩メイト?は、男性客とお散歩する仕事、?カラオケメイト?は男性客とカラオケボックスに行って歌う仕事。?お買い物メイト?は客と一緒に買い物にいく仕事。
 やはり、これらは風俗系ではないらしく、?風俗関係?は別にあって、そこをクリックすると、?ヌードモデル?だとか?AV女優?だとかのバナーもあった。早苗には興味がない方面なので、ここは素通りする。
 どうやら面接があるらしいので、早苗の地味な容貌ではパスする確率も低い。容貌だけでなく、人見知りで見知らぬ人と話すのは苦手だし、到底?癒し?にはほど遠いはずだ。
 万が一、パスしたら、担当者には本当に風俗系ではないのか念を押すことにしよう。
 安易に考えて、そのことは忘れてた。
 翌日の夜、一日の勤務を終えて帰宅した早苗は、もう日課になったようにパソコンを立ち上げた。早苗が暮らしているのはE駅から自転車で十五分ほどのマンションだ。尚吾のような高級マンションではなく、ごく普通のワンルームしかないマンションである。ひと部屋しかないが、広くて大きく切り取った窓がついて陽当たりも良い。
 ユニットバス付きなのも助かった。フローリングの部屋の右片隅にデスクと椅子があり、ノートパソコンが置いてある。夕食はF駅近くの例のファミレスで先輩の三村祥子と済ませてきた。
 営業部長の言ったとおり、祥子が早苗の最近の様子を心配してくれているのは真実だった。
―津森さんらしくないミスが続いている。
 と、祥子が部長に訴えていたらしい。
 早苗はありがたく祥子の好意を受け止め、実はと尚吾と付き合っていたこと、実は彼には妻がいたことなどを打ち明けた。
―深山尚吾ねえ。
 祥子は呟き、思い出したように頷いた。
―そういえば、そんな男がCOCONEにいたわね。二股かけるなんて最低。津森さん、取り返しのつかないことになる前にそんな最低男と縁が切れて良かったじゃない。
 祥子は注文したトマトソースのパスタを優雅な手つきで食べながら言った。入社以来、祥子は常に早苗の憧れの的であり続けた。
 この女性(ひと)は、パスタでさえ綺麗に食べるんだ―。仕事もできるし、ファッションも洗練されて垢抜けている。華美すぎず、適度なエレガントさを保っている。仕事面では厳しすぎると敬遠する若手社員も多いが、後輩のミスを身をもって庇う姐御肌なところもある人だ。
 今日はブラックのパンツスーツに、ショートカットが軽やかに揺れている。ネイルなどは一切していない。飾り気など一切ないスタイルの中で、耳元で控えめに光る小さなパールのピアスだけが際立っていた。
 早苗の視線に気づいたのか、祥子がふっと頬をゆるめた。
―なに? 言いたいことがありそうね。
 それで、つい余計なことを口走ってしまったと思ったときは遅かった。
―三村さんって、営業部長とはその―。
 まずいと思って口ごもり、赤面した。祥子はスーツの胸ポケットからシガレットケースを取り出した。
―良い?
 訊ねるので頷くと、おもむろに細い煙草を取り出し、シルバーのライターで火を付ける。
 細い紫煙をはき出しつつ、祥子は微笑んだ。
―あなたが思っている―ううん、社内全員が思ってるようなことは何もないわ。
 祥子は黙って煙草を吸い続け、備え付けの灰皿に吸い殻を押しつけた。
―私はあなたが付き合っていた深山尚吾のような男が大嫌い。品のない言い方だけど、反吐が出るくらい。女を単なる性欲のはけ口だとしか思っていない類の男ね。それは男女の区別ないわ。品物でも他人の所有物を盗めば、それは罪よね。だったら、人間の心も同じ。他人のもの、つまりは誰かのご主人なり奥さんなりを盗めば、泥棒ね。人を好きになる心はどうしようもないなんて、それは不倫をする人の体の良い言い逃れだから。
 祥子はにこりと笑った。
―そんな私が奥さまがいる部長とわりない仲になると思う? それに、私にも旦那がいるのよ。
―え、そうだったんですか!
 よほど早苗は愕いていたのだろう。祥子は苦笑いしながら言った。
―なになに、三村の局が結婚してるなんて、あり得ないって?
―いえ、そういうわけでは。
 またしても赤くなった早苗に、祥子は淡々と言った。
―まあ、旦那といっても、別居婚だから。でも、籍はちゃんと入れてるのよ。
―旦那さまのこと、お聞きしても良いですか?
 祥子のような女性を妻にする男に興味があった。祥子はまだ笑いながら応えてくれた。
―アメリカ人。週末に通ってるフィットネスクラブでたまたま隣同士になった人でね。今、五十歳。ただ、若い頃に病気をしたとかで、子どもできないの。
 子どもができないというのは、将来は我が子を持ちたい早苗にとっては大問題だ。その想いが顔に出たのか、早苗は屈託なく言った。
―私も女だから、子どもは欲しかった。正直、彼からプロポーズを受けて身体について打ち明けられた時、迷ったわ。でもね。
 祥子は微笑んだ。
―子どもよりも、彼とずっと一緒にいられる方を選んだわ。
 祥子の唇の端にトマトソースがついている。控えめに告げれば、彼女は笑った。
―いやね。子どもみたいで。
 恥ずかしげに言う祥子の笑顔はいつになく温かみがあり、早苗は?三村のお局?が実は人間味のある人なのだと初めて知ったのだった。
 祥子のトマトソースのついた顔を思い出し、早苗は笑った。人間はよくよく話してみないと判らないものだ。明日からは、厳しいだけだと思っていた祥子をもっと違う眼で見られる気がする。
 着替えている間に、パソコンの起動が終わったようだ。通勤用のブラウスとタイトスカートから、淡いピンクのカットソー素材のトレーナーとズボンに着替える。
 肩下まである髪は、通勤時には纏めてシニヨンにしている。今は解き流してそのままにしていた。
 まず恒例のメール確認から始めた時、早苗は?あ?と声を上げた。一日、数十通のメールが届くが、その大半はダイレクトメールばかりである。今日の新着メールの中に、?女のコのお仕事情報サイト?からのものがあった。差出人は?担当 鈴木?となっている。
 こんなに早くに返事があるとは思わず、ドキドキしながらメールを開いた。
―この度は当サイトの?お昼寝メイト?にご応募いただき、誠にありがとうございます。
 と、始まり、応募書類を見て慎重に選考した結果、採用が決まった―つまりは採用決定通知だった。 
「ええっ、面接があるらしいって書いてあったのに?」
 よほど応募者がいないのかと一瞬、不安になりかけたものの、そこは根が楽天的な早苗だ。
「ま、いっか」