小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

選び取り

INDEX|9ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 



 では、最後になりました。昭夫さんお願いいたします。

 「このモニターの映像が録画でない事は証明できないはずだ。冥菜の安否を証明するには、この場に冥菜を連れてくるべきではないか」と。大変厳しいご指摘です。しかし、申し訳ありませんが冥菜ちゃんをここに連れてくることはできません。
 この件は、話したくない、と言うより話すべきではないと考えていました。説明するには、一人の協力者の個人情報を明かす必要があるためです。……ですが、ここまできて話さぬわけにも行かないでしょう。

 実は、モニターの中で冥菜ちゃんを抱えているのは、私の母です。即ち、先ほどお話した彼女の手によって育てられた子というのは、他ならぬ私です。ですが、母はここで行われている事は全く知りません。おそらく協力者という自覚すらないはずです。
 母は、城山家に嫁いで来た当初から復讐に反対していました。復讐のことになると、祖父とも父とも私とも、絶えず言い争いをしてきたような人です。そんな母に、私は幾許かの旅行資金と冥菜ちゃんを預けました。そして、旅行先で一風変わった「選び取り」を行った後、冥菜ちゃんを信用できる児童養護施設に預けてほしいとだけ伝えました。私は母の旅行先は聞いておりません。冥菜ちゃんをどこの施設に預けるかも知りません。知っているのは、母が老後の趣味でやっている生放送配信のサイトURLだけです。モニターは、そのサイトの映像を写しています。視聴者は皆、「選び取り」をやって欲しくて待ちきれないようです。彼らは、その「選び取り」の裏で、このような事が行われているとは知らずに見ていらっしゃるのでしょう。
 母にこの役目を担ってもらったのは、幾つかの理由があります。赤ちゃんの世話ができる事。ボランティアが趣味で、児童養護施設に詳しい事。そして何よりも、復讐に猛反対している事。
 復讐に反対していることについては、私としてはもちろんリスクも大きいです。しかし、冥菜ちゃんの身の安全のためには、最適です。息子の私が、預けた赤ん坊について何かほじくり返そうとすれば、母は必ず不審に思うでしょう。母は非常に正義感が強い人です。犯罪に手を染めていると知れば、例え息子が極刑になろうとも躊躇せず警察に突き出せる人です。即ち、冥菜ちゃんの安全を保障してくれる存在。それが母なんです。
 それに、おそらく母ももうそれ程長くはないでしょう。その日が来れば、冥菜ちゃんの居場所は永遠に日の目を見る事はなくなります。まあ、老いた母に犯罪の片棒を担がせて、良心が痛まないかと問われれば俯くことしかできませんが。
 少し話が横道に逸れましたが、とどのつまり冥菜ちゃんをここにつれて来ようにも、ここに居る誰もが冥菜ちゃんと母の居場所を知らないのです。もちろん私は母の携帯番号ぐらい知っておりますので、電話をかけて、母に居場所を尋ねればすぐ教えてくれるでしょう。多少時間はかかりますが、モニターに映る家具などの情報から、宿泊地を割り出して居場所を突き止めることも不可能ではないでしょう。ですが、そうしてしまうと、私は冥菜ちゃんの居場所や預ける施設の情報を知ってしまうことになるのです。
 先ほども申しましたように、私は冥菜ちゃんに危害を加える気は一切ありません。この復讐の後は、速やかに自決をするつもりでもあります。しかし、人間どこで気が変わってしまうかわかりません。
ですから、私は冥菜ちゃんの居場所を極力知りたくないのです。「赤ちゃんをちゃんと施設に預けたよ」という報告だけを、母から受け取りたいのです。おそらく皆さんも、冥菜ちゃんの居場所は私に知られないほうが良いと考えるでしょう。今ここにいないことは確かに不安かもしれませんが、それでも復讐に反対している気の良い老婆の手の内の方が良いと思われるのではないでしょうか。

 ですが、おっしゃる通りここに元気な冥菜ちゃんを連れてくることが身の安全を証明する唯一の方法でした。これは昭夫さんのご指摘の通りです。そのような考えに至らなかった点は、頭を垂れて謝罪いたしたいと思います。大変、すみませんでした。


作品名:選び取り 作家名:六色塔