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選び取り

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 次の質問である、ボタンを押す順番をつけた理由についてご説明いたします。まず、優一さんがおっしゃったような、怖がる様を見たいという気持ちはありません。祖父から言われているのは、「遠野の家を根絶やしにしてくれ」のみです。怖がらせろとか、辱めろとか、苦しませろとか、絶望させろとか、そういった事は一切聴いておりませんし、するつもりもありません。
 ではなぜ、順番をつけるのか。実は、これもあまりお話ししたくはありません。ですが、尋ねられた以上お話いたします。

 この処刑装置は、すでに私たちの方で何回もテストを行っております。肉のブロックや死体などを使って試験を重ね、三台とも正常に動く事をちゃんと確認しております。無論、刃を研ぐなどのメンテナンスも怠ってはおりません。ですが、昔から用いられ信頼されているこの装置も、極々まれに失敗する事があるそうです。そして、失敗の仕方次第では大変な苦痛を皆さんに与えてしまう可能性があると聞きました。具体的には、刃が首を切断できずに途中で止まった場合です。
 そうなっては私の協力者も手が施せません。その場合、私は速やかにその方にとどめを刺して、苦痛から解き放たなければなりません。祖父から苦しませるよう言われていないことは無論ですが、そのような凄惨な事態を是認できるほど私は惨忍ではないつもりです。
 ですが、そんな低確率でしか起こりえない事態が二人、三人同時に起こったら? 私は、対象者の苦痛を解放する順番を決める必要に迫られます。しかも、今度は「選び取り」なんてやってられません。私自身も、申し訳ありませんがその時ばかりは少なからず動揺しているでしょう。そんな状況の中、冷静な判断ができず、どなたかの苦痛を長引かせるような事は何があってもできません。それならば、そのような状況が起こらないようにするべきです。そのために復讐は一人ずつ行う必要があるのです。このことを私が言いたくなかったのは、そのような惨たらしい事態が起きる確率が微小でも存在することを知られたくなかったからです。

 それなら「協力者がいるのだから、それこそ協力してもらえば良いのではないか」と考える方もいらっしゃるでしょう。しかしそれもできない理由があります。先にも言いましたように、彼らはあくまで協力者です。復讐の実行者ではありません。先のような惨たらしい状況だとしても、いやだからこそ、協力者には手を汚させません。あくまで復讐を行うのは私一人です。何が起きようと責任をとるのも私一人です。私がボタンを持っている理由もそのためなのです。

 もしかしたら「刃ではなく、銃や絞首など方法を替えればいいのではないか」という意見が出るかもしれません。私の方でも様々な方法を模索し、苦痛が少ないものはないかとできる限り知恵を絞ったり、文献を漁ったり、協力者にお話を伺ったりいたしました。
 その結果「この方法で死ぬと楽だよ」という情報は比較的容易に手に入れる事ができます。しかし、「いやそれ実は苦しいよ」という情報もすぐ手に入ってしまうのです。要するに「楽だ」と言われている方法の大半は、「実は苦しい」という情報も存在しているのです。もしかしたら、本当に実行されないように、抑止力としてこの情報があるのかもしれません。ですが、どちらにしても一番問題なのは、それを証明する方法が無いことです。つまり、楽に死ねるかわからないから「じゃ、ちょっと死んでみようか」というわけにはいきません。実際にその方法を実行して、成功した方にお話を聴くわけにも行きません。さらに、先ほどお話したとおり、あくまで私自身が手を下せるものでなくてはなりません。即ち、素人でも可能な、専門知識を必要としないものに限られます。また、これはこちらの事情ですが、予算との兼ね合いもあります。そういった諸々の条件の中で選択した結果が、この方法なのです。


作品名:選び取り 作家名:六色塔