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選び取り

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 さて、ここまで私の方が一方的にお話をしてまいりました。皆さんにも、ご意見、ご質問等あるかと思います。最後に、そういった皆さんの声に答える時間を設けたいと思います。
 ただし、幾つも質問をすることで復讐に取りかかるまでの時間を長引かせる、ということをされては私も困ります。大変申し訳ありませんが、質問は手短によろしくお願いいたします。

 質問をする順番くらいは、私が決めても問題ないでしょう。では……。春美さんからどうぞ。


 えーと、「なんでこんなひどいことをするの? 鬼! 悪魔! 人でなし! 離して!」という事ですけれども。
 「こんなひどいこと」とは復讐のことだと思いますし、復讐をする理由については最初の方に動機という形でご説明をさせていただいたかと思います。ですが、その説明だけではおそらくご納得いただけないだろうと、私も痛切に感じておりました。そして、これからどれだけ時を費やし、言葉を重ねたとしても、やはりご納得いただくのは難しいだろうと思います。ですが、それでも私自身の考えについて、お話しする時間を少々いただければと思います。

 祖父の完二は、私が生まれた頃にはもうすでに長くない状態でした。長年の病床生活ですっかり意気阻喪して後は寂しく世を去るだけだった祖父が、私の出生の報を聴き「まだまだ、くたばるわけにはいかねえな」と呟いたそうです。しかし、もう祖父の資産は残りわずかでした。私の出生から数年後、入院代を払えず病院から追い出され、家でのたうちまわるような痛みに悩まされる日々を送るようになっていました。そんな中、祖父は五歳の私にランドセルを買ってくれたのです。もうそんなお金などどこにもないはずなのに。孫の私のためだけに、痛みを抑える薬を我慢して残しておいたお金だったのだと思います。そして、痩せ衰えた体で痛みを堪えながら「ランドセル背負って学校に行く慎二が見てえなぁ」としきりに言っていたのを今でも良く覚えています。
 私の父である洋二は、だらしのない人でした。飲んだくれで、ギャンブルが大好きで、本当にどうしようもない人でした。私をちゃんと高校まで出してくれたことは、とても感謝しています。しかし、私はどうしても父が好きにはなれませんでした。そんな父の秘密を知ったのは、父が亡くなったときでした。私は、遺産の整理で父の通帳を確認していました。通帳には驚くほどの金額が記載されていました。しかし、そのお金の増減に法則があったのです。その法則とは、とある額までお金が溜まりそうになると、必ずお金が引き落とされている、というものでした。なぜその金額に近づくとお金が引き落とされていたのか。その理由は、通帳と一緒に保管してあったメモを見てわかりました。父は復讐に必要な費用を、概算ですがそのメモに記録して残していたのです。その費用の総額が、お金を引き落とすときの金額とぴったり一致するのです。
 父は、復讐をしなければならなくなるのが怖かったんだと思います。普段からお酒を飲んでいたのも、少しでもその恐怖を紛らわしたかったのかもしれません。引き落とされたお金自体は、おそらくギャンブルで泡の如く消えていったんだと思います。もしかしたら、浪費が目的で、ギャンブルはそれ程好きではなかったのかもしれません。お金を浪費して、復讐の時を遠ざけさえできれば、何でも良かったのかもしれません。復讐に怯え続け追い詰められながら、酒を飲み続け体を壊して、父はその生涯を終えたのでしょう。

 ……別に、祖父と父の話をすることで、皆さんの同情を買おうというわけではありません。私が言いたいのは、祖父も父もまぎれもなく人間であったということです。復讐の気持ちを胸に抱き続けた祖父だって、孫は何者にも変えられぬほど可愛かった。その気になれば復讐を実行できた父は、その復讐に押しつぶされてしまった。鬼でも、悪魔でも、人でなしでもないんです。ちゃんと人間だったんです。ただ祖父は、人よりちょっとだけ恨みを忘れられなかっただけなんです。ただ父は、人よりちょっとだけ気が小さかっただけなんです。二人の遺志を継いでここにいる私も、人よりちょっとだけ神経質でおしゃべりなだけなんです。屁理屈だ、自分のやる事を正当化しようとしているだけだ、などと言われても構いません。そう思うんです。
 ……いや、少なくとも私自身については何と言われようと構いません。これから行おうとしている事は、確かに馬鹿げたことでしょう。鬼畜の所業と言っても差し支えないことだと思いますしね。ですが、後段の「離せ!」については、申し訳ありませんが、承服するわけにはいきません。皆さんの拘束を解くのは、先にご説明したように私が倒れた場合か、邪魔者が踏み込んだ場合のみです。こちらにつきましては、何卒ご容赦賜りますようお願い申し上げます。


作品名:選び取り 作家名:六色塔