小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

短編集7(過去作品)

INDEX|14ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

「それが、何もないんです。警察の方も結局何かのストレスではないかと言ってるんですが、私には思い当たりません。前日話した時も楽しそうでしたし、私にも何が何だか分かりません。ただ……」
「ただ?」
「ええ、死ぬ前不思議なことを言っていたんです。最近よく自分の目の前で自殺者を見るって……。私がさらに聞き返そうとすると慌てて、あれは夢だったのかもとすぐに否定しましたけどね」
 どういうことだろう?
彼女はその時軽く聞き流したようだが、今となってみては気になって仕方がないようである。
しかし私は自殺と聞いて驚きはしたが、“なぜ”という気持ちよりも自殺という行為自体の方が恐ろしかった。
 その時の私は身体の奥からこみ上げてくる震えをどうすることもできなかった。
 もし彼が死ぬのであれば自殺もありうるという考えは以前からあったので、それについて驚きはしない。しかし、彼が自殺したということは、それ自体が何か私の今後に影響を与えるような気がして仕方がなく、止まらない震えはそういった何の根拠もない不安から来ているのだ。
 何が彼を自殺に追い詰めただろう。
 何事も結論が出るまで追求して考える彼だったので、追及しきれない壁にぶつかったのだろうか?
 いや私の考えは少し違う。逆ではないかと考えている。
 ひょっとして、何かの境地に行き着いたのかも知れない。それがあまりにも大きなことで、自分の現状と照らし合わせて考えた時、自分の人生を儚く考えてしまうことだってありえないことではない。私としてはそれが一番彼の自殺の原因として自然な感じがするのだ。
 しかし、私には彼の言葉が引っかかっていた。
「人間、見てはならない人がいる」
 と言ったあの言葉である。
 彼は何か見てはいけない人か物を見てしまったのではないだろうか? それが彼を死に至らしめたと考えるのはあまりにも性急かも知れないが、もしそうだとすれば、いかにも彼らしい最後と言えるのかも知れない……。
 あの時の胸騒ぎ……。今それを思い出している。
 ひょっとして彼が死を決意したその時の心境を垣間見ることができるかも知れない。しかしそれは私にとって恐ろしいことである。
あの時の震えが、私の中でよみがえる。
この間からのコンビニやコンコースで見た男、あの男が私の思っている同一人物であるならば、私にとって“見てはいけない人”になるのだろう。
本来であれば絶対に出会うことのない人、出会ってはいけない人の、見てはいけない行動を見てしまったという思いが私を震えから解放してくれない。
「あの男、ひょっとして自分ではないだろうか?」
 そんな思いが頭を巡る。
 どこかで見たことあるのだが、顔にあまり記憶がない。それでいて親近感の湧いてきそうなその顔は、鏡でしか見ることのない自分の容姿……。しかも鏡で見る自分の表情から想像もできない不敵な表情では、すぐに自分だとは分からない。っというよりも無意識に認めたくないのだ。
 自分という人格を形成するために切り捨ててきたもう一つの性格。そういえば、自分のまわりで時々おかしなことが起こっていたような気がしていた。あれも押し殺してきた自分がやっていたのかも知れない。
直接自分に関係ないと思ってほとんど気にしていなかったが、こうやって考えると関係ないと思われていたことも今の私に多大な影響を与えているような気がして仕方がない。
たくさんある自分の性格の中から一つを選び、自分を形成する。捨てられた自分の性格がどこへ行ったかなど考えたこともなかった。
彼らは私を追いかけてくる。時間を止めて行動するのは私に追いつこうとしているからかも知れない。ただ悪さをするがためだけではないはずだ。そして彼らを見た私は思う、絶えず意識し存在を肯定することによって、彼らに追いつかれないようにするだろうと。もちろん無意識にではあろうが……。
私はそれからも、いつもと変らぬ生活を続けた。
彼らのことを意識しながらであるが、そうすればするほど、彼らは私の前に現れない。
なぜだろう? ひょっとしてそんなものなのかも知れない。いつもそばにいて意識しないだけなのだ。
ただ、最近感じることがある。
朝、出勤の時、後ろから痛いほどの視線があたるのを……。

                (  完  )

作品名:短編集7(過去作品) 作家名:森本晃次