赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 50~55
「急な上りで、合計が45里ですか・・・・
それはずいぶんとまた、歩き始めから難儀なことです。ねぇ、たま」
「2キロあまりの山道で繰り返される、3つの急な上りだ。
でもね。ここは名だたる名峰です。
急な坂道が多いとは言え、登山道はきれいに整備されています。
オーバーペースにならないように、道標をひとつづつ確かめながら、
一歩一歩、慎重に登って行きましょう。清子」
恭子が言うとおり足慣らしとも言える、平坦な杉林がしばらく続く。
しかしそれもつかの間のこと。
やがて本格的な登りが、2人の目の前に迫って来る。
最初の尾根で地蔵山まで続いていく、長坂と呼ばれる急傾斜があらわれる。
20~30分登るごとに、休憩用の広場がつくられている。
広場がいくつも整備されているには、理由がある。
数日をかけて、山を散策する人たちが増えてきた。
大きな荷物を背負う登山者たちに、配慮したためのものだ。
景観から杉が消える。雑木と灌木に覆われた登山道に変わると、
最初の休憩場所が見えてくる。
ここが急坂路の起点だ。ここから下15里の急坂がはじまる。
「たま。最初の急坂、下15里が見えてきました。
あらら。ほんまや~。いままでの登山道から比べると桁違いの急坂やな。
杉の小径は、ほんの小手調べでしたなぁ。
ここから先は、1歩くごとに1m上昇していくような、きつい坂どす・・・・
しかたおまへん。ささいな距離で、15里分の苦労をするんどす。
簡単には登らせてくれまへんなぁ、飯豊山の登りというものは・・・・」
「どうしたのさ清子。変だぜ。
どうでもいいけど、その中途半端すぎる京なまりは、
なんとかならないのかい?
歯がゆくて、なんだかあたしまで、力が抜けてしまいそうどす」
「あはは。すんまへん。
ウチ、極端に緊張すると、なぜかこんな口調になるんどす。
かんにんどっせ。恭子おねえ~はん!」
『大丈夫かいな清子は。
ほんま。なにやら、ウチまでおかしくなりそうや・・・』
恭子が額から流れ落ちてくる、大粒の汗を拭う。
急坂の途中で恭子が立ち止まる。真っ赤な顔をして登ってくる清子の
姿を振り返る。
『なんやかんや言う割に、頑張って登っているやんか、この子・・・
意外と根性あるわ』
うふふと嬉しそうに、目をほそめる。
(53)へ、つづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 50~55 作家名:落合順平