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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 50~55

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 名残惜しそうに小春が、駐車場から手を振る。
『大丈夫です。そんなに心配しないでくださいな』恭子が笑顔で手を振り返す。
林道を歩き始めた次の瞬間。『何が書いてあるんだい?』
くるりと小春に背中を向けた恭子が、いそいで清子の手元を覗き込む。

 「わざわざメモを書いてくるなんて。いったい何なのでしょう・・・・
 何が書いてあるのかしら?」

 なになに・・・
『小春の姿が見えなくなったら、急いでリュックを開けよ』と書いてある。
リュックを開けろ?。一体どう意味かしらと清子が駐車場を振り返る。
豆粒ほどの大きさに変わった小春が、あいかわらず両手を振って見送っている。

 「まだ、小春姉さんの姿が見えております」

 「でもさ。歩き始めたら、いそいで開けろと書いているくらいだ。
 きっと、緊急を要するものが入れてある。
 なんだろうね。登山に必要なものは全部、はいっているはずだ。
 いまリュックを開ける理由は、まったく無いと思うけどね。
 あっ。ひとつだけ思い当たることが有る。
 清子。いつも身近にウロウロいるはずの、あいつの姿が見当たらないよ!」

 「そういえば、小春姐さんの車の中にも、姿がなかったですねぇ。
 もともとお気楽屋のたまのことです。
 どこかでのんびり、お昼寝などをしていると思います」

 「それにしても変だ。
 昨夜からまったくたまの姿を見ていないもの。
 登山で3日もいなくなるというのに、それを知りながらあいつが
 姿をみせないなんて、変だと思わないか。
 清子。急いでリュックを開けて見な。
 市さんのことだ。もしかして、もしかするかも知れないよ!」

 『えっ!』清子が駐車場をふりかえる。
小春の姿を探すが、すでに車ごと駐車場から消えている。
『ほら。とにかく急いで下ろして』
背中へ回った恭子が、清子のリュックに手をかける。

 「あっ。ほら・・・やっぱり居た!」

 リュックサックの口から、たまの寝ぼけた顔がでてきた。
『一体全体、何事だぁ』たまが、ぼそりとつぶやく。
まだ睡魔から覚めきれていない。
眠り薬でも飲まされたような、そんな気配がぞんぶんに漂っている。

 「うふふ。たまと清子はやっぱり一心同体だ。
 市さんに眠り薬を飲まされましたね、お前さまは。
 眠りこけているあいだに、リュックサックへ放り込まれたんだ。
 これで今回の山行きは、かよわい女子2人に、小猫が1匹。
 女人禁制は聞いた覚えがありますが、猫が入山禁止とは聞いていません。
 よかったねぇ、たま。
 お前も可憐に咲くヒメサユリや、たくさんの高山植物をその目で
 たっぷり見ることができるよ。
 市さんの粋な計らいに、心から感謝しなければなりません。
 やっぱり清子とたまはワンセットだ。あっはっは」


 (52)へ、つづく