赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 50~55
不思議そうな顏で建物を見上げている清子に、管理人が気づく。
東北では無人の山小舎が多い。
登山客が多くなる夏場に限り、管理人が雇われる。
ほとんどが役所からの委託を受けたものだ。
だから山小舎のオーナはいない。ほとんどが役所からの委託を受けた
管理人たちだ。
これらの山小舎は、冬場になっても閉鎖されることはない。
避難小屋としていつでも利用することができる。しかし管理人は不在になる。
屈指の豪雪地帯に変わるこのあたりでは、積雪が3mから5mに達する。
2階建ての三国小屋ですら屋根まですっぽり、雪に覆われることがあるという。
清子が見つめているのは、入口のドア付近に取り付けられている
太い角材でつくられた、屋根まで届く巨大な梯子。
2階と思われる部分に、1階と同じ大きさのドアがある。
『ということは、はしごを上がれば、2階から山荘へ入ることが
できるのかしら・・・』
清子がポツリとつぶやく。
「その通りだよ。お姉ちゃん。
このあたりは、東北でも指折りの豪雪地帯だ。
山が好きな連中は真冬であろうがおかまいなしに、このあたりまで
登って来る。
もちろん。素人じゃない。
アルプスやエベレストの、遠征前のトレーニングにやってくるんだ。
夏は高山植物や、天空の花園を楽しみに来る一般人たちの憩いの空間になる。
しかし冬になるとここは、一転して気象の荒い地に変わる。
ときには吹雪が吹き荒れる。
そういうときための設備が、あの頑丈な梯子だ。
2mも積もれば、1階のドアは雪にふさがれてしまう。
そういう場合。梯子を登り2階のあのドアから山荘の内部へはいるのさ。
それだけじゃないぜ。
普段は使わないが、万一の時にそなえて、2階の屋根からの入口もある。
だが、コイツの使い道はそれだけじゃない。
理由が知りたかったらまずはこの梯子を、自分の足で登ってみることだな」
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 50~55 作家名:落合順平