赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 50~55
『お前も一休みをしたほうがいいそうです』
清子が胸のポケットからたまをつまみ出そうとする。
しかしたまは、『寒すぎるから嫌だ』とばかり、目を見開いたまま
ポケットの中で首を横に振る。
雲の切れ間から、下界の様子がよく見える。
このあたりで標高は、すでに1500mを超えている。
『なんだい・・・寒いのかい?、お前』清子がたまを覗き込む。
たまがフルフルとヒゲを小刻みに震わせている。
寒さより、立ち込めている湿気を含んだガスを嫌っているようだ。
よく見ると口の周りをしきりに舐め回している。
猫が顔や耳の後ろなどを洗うと、雨が降る可能性が高くなる。
『猫が顔を洗うと雨が降る』と昔から言われている。
猫は極端に湿気嫌う。
顔に着いた湿気のベタベタを、手で懸命に取り除く。
猫がいつも以上に顔を擦っていたら、低気圧が接近している証拠になる。
曇り空なら、傘を持って外出するほうが良いとされている。
口や鼻の周りをなめることもある。
この場合。猫の気持ちの中に迷いが生じている。
逃げ出したい気持ちがうまれている。逆に近寄ってみたいと
考えている時もある。
行動に迷いが生じたとき、猫は口の周りを舐める。
次の行動に移りやすくするため気分を鎮めて、落ち着つかせるための
行動と言われている。
「あはは。たまは男の子のくせに、臆病すぎる。
危険な岩場だと言われて、緊張しているんでしょ。
無理はない。あたしだって高度1500mの岩場は初めての体験です。
でもさぁ、見てごらん。
あちこちに鮮やかなピンクや、オレンジの花が見えるだろう。
白や紫色の花も見えている。
ここはきっと、晴れていれば雲の上の花園です。
そんな気配がぞんぶんに漂っています。
ほら。たま。もっと大きな目を見開いて、まわりを見てご覧。
こころが踊るような景色が、お前にも見えますから」
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 50~55 作家名:落合順平