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時空を超えた探し物

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 だが、この映画が気になって仕方がなかったのは、さつきの演じる充希が、探そうとしているものが何であるか、それが気になったことと、充希が自分を気にしているという感覚と、充希を演じるさつきの後ろに暗躍している人がいて、その人を自分が知っていると思ったからだった。
 この話が中途半端に終わっているのは、充希が何かを探し求めていて、それが見つかっていないからだと思う。
 由香がクモの世界に入り込んでしまったのは、さつきを自分の世界に誘い込んでしまいたいという願望を抱いたからではないだろうか? 由香は最初からクモになっていたわけではない。自分の中に抜けることのできない世界を感じたことで、自分が好きになった人を引きづりこみたいという思いがあったからではないだろうか?
 それがさつきであり、さつきとの関係が冷えてくれば、悟だったのだ。
 元々由香は、相手が女性でないと関係を持てないと思っていた。相手が男性であれば、腹を空かしてしまうと、相手を食べてしまうという妄想に駆られているからではないだろうか。だから、相手はさつきでなければいけない。さつきが演じる充希ではダメなのかと感じていたようだが、充希は由香の考えが分かったのか、さつきから分離して、一人で意
思を持つようになったのだ。そして、さつきは充希を演じることで、同じ日を繰り返しているという世界に、由香を閉じ込めたのだ。その世界に導くことができるのは充希だけだった。由香を引き付けるだけ引き付けておいて、同じ日を繰り返す世界に送り込んでいた。この世界は由香には自然に感じられた。まさか自分のいた世界と違う世界に入り込んでしまうなど、想像もしていなかったからだ。これも充希の力である。充希はさつきによって作られた虚空の世界の人間なのだ。
 同じ日を繰り返すという現象を自然だと感じた由香は、悟も同じ世界に誘おうと思った。由香にしてみれば、悪気があったわけではない。確かに自然な世界ではあるが、一人では寂しい。その相手に悟を選んだのだが、最初、この世界を自然に感じられるまで、疑問を感じていた由香が表に表した態度が、冷めているように悟には感じられた。
 そんな由香の様子を勘違いした悟が、由香の誘いに乗るわけがない。由香のことを全面的に信じていない限り、同じ日を繰り返しているということを自然に感じるなどありえないことだった。
 もし感じたとしても、本当に由香と二人で入り込むことを望んだだろうか?
 今となっては分からないが、由香は今も同じ日を繰り返しているのかも知れない。
――同じ日を繰り返していると、年を取ったり、死んだりしないのだろうか?
 と考えたが、年も取るし、死ぬこともあるだろう。死ぬことで同じ日を繰り返しているという現象から抜けられるのかも知れないが、そのどちらも本人が望んでいないとするならば、何とも皮肉な結果が最終的には待っているのかも知れない。
 由香は、悟を誘い込むことに失敗したことで、一人でこの世界に残ってしまったことになった。そんな由香の存在を知っている人が一人だけいた。それが、さつきが演じている充希だったのだ。
 映像の中で充希が探し続けているもの。それが由香であった。由香が同じ日を繰り返していて、さつきの分身である自分なら、由香と一緒に同じ日を繰り返すこともできると思っているのだろう。
 そんな充希を表から見ている悟。悟には充希が何かを探しているように思っていたが、それが何なのか分からない。
 悟は充希を見つめながら、その背後の由香を感じていた。
――僕はこのビデオを見ている時だけ、現実の世界にいるのかも知れない――
 ひょっとすると充希が探しているのは、由香だけではなく、悟なのかも知れない。ビデオをいつも見ている悟の前で、絶えず何かを探している素振りを見せる充希、彼女はナースでありながら、人の死をまわりが感じているよりも軽く感じていたようだ。
――ビデオを見ていない時の僕は一体どこにいるというのだろうか?
 そう思った時、ビデオの向こうに椅子に座ってこちらを見ている一人の男がいるのを感じた。
――僕じゃないか?
 ビデオを見ているという意識がない時、それは自分がビデオの中にいて、充希と同じ世界にいる。しかし、二人が出会うことはなかった。同じビデオの世界であっても、そこは次元が違っているようだ。
――決して出会うことのない二人――
 それは、決して交わることのない平行線を描いている気がしていた。
――そういえば、同じ日を繰り返していると思っていたあの時、数分前を歩く、「もう一人の自分」を感じたんだっけ?
 と思うようになっていた。
 もう一人の自分は、ビデオを見ている自分、そしてビデオを見ていない時は、ビデオの中の別次元に潜んでいるのだ。
 充希が探している相手というのは、由香に間違いはないだろうが、それだけだろうか?
 充希は、ビデオの中にもう一つの次元が広がっているのを知っていて、そこに、いつもビデオを覗き込んでいる悟がもう一人いて、そこに潜んでいるということに気が付いているのかも知れない。
――充希が探している二人のうちの一人を見つけることができると、もう一人も同じ次元に引き寄せられるに違いない――
 と感じた。
 一体、悟がいつこの世界に入り込んだのかハッキリと分からないが、由香が冷めてきたことを感じた時、今の世の中に寂しさと失望を感じたのをおぼろげながらに記憶している。今となっては、どうでもいいことなのかも知れないが、望みとしては充希に、
――早く僕か由香を見つけてほしい――
 と思うことだった。
 決して出会うことのない人が次元を超えて出会うことで、それまで歪んでいた世界が一つにまとまる気がしてきたが、やはり、そんなことはもうどうでもいいことだった。
――焦らずに待ってみるか――
 こんな落ち着いた気分になったのは初めてだった。一人が寂しいと思う時期はずっと過去のこと、少々のことでは何も感じなくなっていた。
――いや、もし以前にもこんな落ち着いた気分になったことがあったとすれば、バーが目の前から消えたのを見たのに、それほど驚愕しなかったあの時なのかも知れない――
 と思う悟であった……。

                  (  完  )



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作品名:時空を超えた探し物 作家名:森本晃次