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もやもや病 1

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4 買ってあげれば良かった 柿

どの手術も3,4時間で病室に戻ってきたけど、私は最初の時をのぞいて、いつも1人で手術室の前にいた
夫は仕事人間、仕事帰りには顔を見には来たけれど、昼間手術室の前で待機しているわけにはいかなかった

私は、どの手術の時にも、夫の母に電話して
今日これから手術だからと伝えた

次男が倒れる数日前に、小児科を受診した後
八百屋さんに寄ったとき、8月末だというのに、お店に柿の実があった…
まだまだ季節じゃないものだもの、お母さん買ってと次男に言われたけど、私はもう少ししたら美味しくて安い柿が出るからって、買わなかった…
こんなふうに倒れることになるのだったら、食べさせてあげれば良かった…そう思った…
あの時にあったのに、9月に入ったら、今度はお店に並んでいない
私はあちこち探して柿を買った…

口がゆがんでいて、大きな口を開いてくれない
柿を2,3ミリの薄さにスライスして持って行った…こんなの柿じゃないみたいって思いながら…

次男はその薄い柿を何枚もは食べなかった…
右手の麻痺は、紙を1枚持つことも出来ない
仕事帰りに夫は、これが持てたらあげるから持ってごらんって、1万円札を出した、でも、持つことなくひらひら落ちる

2週間も一言も口をきかなかった次男は、お母さんと言うことが出来た後は、またしゃべれるようになった

今度は、夫が言う、あの子は話し方がおかしくないか?
俺たちに、ですますという話し方なんかしなかったのに
わかった?と聞くと、はいわかりました、と答える
うん、わかったって言う子だったのに…
頭の中の回路が狂ってるのかな…
子どもに敬語で話をされるってものすごい違和感…

それで居て、小児科病棟にいた保母さんに、この子は実際どのくらいまでレベルが落ちたと思いますか?と聞いてみた
言いにくそうだったのを、かまわないから言ってみてと聞き直すと
3歳ぐらいじゃないかと思います…
やっぱり…私にだってそのくらいはわかった…

小児病棟の中でもこの部屋は小学校に行っている子と、その下と、いくつかの年齢によって4人とか6人とかの部屋になっていた
小学校の子どもたちは、ぜんそくと、盲腸と、脳腫瘍と病気は違ったけれど、同じ所にいて
でも、歩けるようになった次男はその部屋に居ることなく
いつも3歳から5歳の子どもたちの部屋に入り浸っていた

次男に1+1は?って聞いたら、首をかしげて、わかんない、って笑いながら言う…こっちも笑いながら、どうしようって思った…

病棟の付き添いは、2時から7時まで
7時にはみんな親が帰される
10キロの道を車で走りながら、信号がにじんで大きく見える
20分の道を、松山千春のカセットを聴きながら走っていた

次男が倒れる前から、車の中は松山千春のカセットだった…
恋の歌が流れるとき、次男にはもう恋は無縁なのだと思いながら走った…

作品名:もやもや病 1 作家名:とことん