小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

魂の記憶

INDEX|34ページ/34ページ|

前のページ
 

 由紀子が見ている過去と未来、そして、啓介が抱いている自分の中にある「男と女」という二つの性。そして、それは頼子にも言えることだった。恵が精神に異常をきたしているというが、すべてに異常をきたしているわけではない。つまり正常な部分と異常をきたしている部分が同居している。これも、「二つの性格」として考えることができるのではないだろうか。
 そして、光となり影となった二人の弟、正則と啓介、この二人は、
「二人で一人」
 という発想を由紀子は抱いていた。
 皆、それぞれ、似ているようで微妙に違っている。まったく違っているように見ていると、共通点はなかなか見つからない。深く入り込むことで相手を理解できるということに、当て嵌っているだけではない。ただ、今ままで見えていなかったものが見えてくるのは事実だった。
 由紀子は自分のことを、
――人の影響を受けないと思っていたが、未来を感じたその瞬間から、人の影響を受けやすい人間なのだ――
 と思うようになっていた。
 未来のことを見ていたのかも知れないと思うようになると、今度は今までに考えたこともない発想が浮かんでくるのを感じていた。ただ、それは自分だけがそう思っているだけで、もし他の人が自分の立場なら、発想の範囲内であったのではないかと思っていることだった。
――そもそも、カギを捨ててしまったというのも、本当に自分の記憶なのだろうか?
 記憶していることは間違いないが、それが自分の記憶なのかどうか、怪しいものだと思うようになっていた。トラウマとなってしまい、モノを捨てられなくなったり、直近の記憶が思い出せなかったりするのは、自分の記憶だからではなく、他の人の記憶が自分の中に混在してしまっているからなのではないかと思うようになっていた。
 本当にそうなら、幾分か自分の意識は楽になり、トラウマになっていることも消えてしまうのではないかと思うが、むしろその方が怖いと思っている自分がいるのも事実だった。
――そういえば、恵さんも私と同じように、遠い過去のことは思い出せるのに、直近の過去は思い出せないと言っていたわ――
 そう考えると、次第に自分と同じ性格に見えてくるから不思議で、
――ひょっとして、あの人もモノを捨てられない習性を持っているのではないか?
 と思えてくると、今度は彼女が精神に異常をきたしているという事実が恐ろしくなった。
――下手をすると、私も同じように、精神に異常をきたす時が来るのではないか?
 と思ったが、
――いや、すでに異常をきたしていて、ただそれに気付いていないだけなのかも知れない――
 そう思ってしまうと、もう頭の中の混乱を抑えることができなくなった。
「未来が見えているのではないか?」
 という意識が今は一番強い。そう思えてくると、今度は今まで忘れてしまっていたと思っていることが、雪崩を打ったように思い出されてくるような気がしてきた。
 もし、今そんなことになってしまうと、由紀子は自分を抑えることができなくなる。
――忘れてしまったと思わないようにしよう――
 モノを捨てられずに溜まりに溜まったストレスが、今形となりつつあったのだ。
 きっと今まで忘れてしまっていたことは、自分の中で、少なくとも、
「忘れてしまいたいこと」
 として認識していたのだろう。
 しかし、忘れているわけではない。きっと魂が覚えているに違いないのだ。
「魂の記憶」
 それは、さっきまで未来だと思っていたことが、いつの間にか今になり、そして過去になっていくという紛れもない事実が次第に由紀子を包んでいく。
 魂と一体になった由紀子がどこへ行こうとしているのか、それを知っている人がいるとすれば、それは頼子と恵だけだろう。
――一体知っているとすれば、どっちなのだろう?
 それによって、すぐに訪れるであろう由紀子の未来は、まったく違ったものになっているに違いない……。

                 (  完  )






作品名:魂の記憶 作家名:森本晃次