ありがとう
数日経って。
少年はようやくベッドを降りた。
まず驚いたのは、村にまったく活気がないことだ。
音そのものは存在する。
だが、肝心な何かが足りない気がした。
しかし、少年の関心は、すぐに別のものに移ってしまった。
少年が倒れたとき、最後まで近くにいた筈の仲間が、そこに居たのだ。
二人は再会を喜び合い、数日はお互いの状況を語り合って過ごした。
やがて、二人は三人になった。
三人は四人になり、四人が六人になった。
同じ部隊の仲間たちが、何とか生き延びて村に辿り着いたのだ。
もしかしたら、待っていれば同じように辿り着く仲間が居るかもしれない。
そんな再会と思いが幾度も重なりあって、少年たちは暫く村に留まる気になった。
村の人たちは優しく微笑んで彼らを受け入れてくれたし、少年たちもまた、彼らの日々の暮らしを手伝い、その成果を分け与えてもらうだけの働きをした。
そして、或る日、気づく。
言葉が通じないだけではない。
この村には、自分たち以外に言葉を発しているものが居ないのだということに。
仲間のあるものが言った。
『この村には、言葉も文字もない。人は微笑んだり、怒って見せたり、悲しんで見せたりしながら互いの感情を伝え、相手はその態度から相手の感情を察して、何かの対応して意思表示する。それだけの者たちだ』
別の者は言った。
『それではあまりにも不便だ。ここで世話になっている礼に、彼らに言葉と文字を教えてはどうだろう?そうすれば彼らは、より高度な伝達方法を覚え、算術なども覚え、知恵をつけ、豊かになる筈だ』
皆が賛成した。
皆、自分たちを受け入れ、生かしてくれた村人に感謝し、はっきりと感謝を伝えたかったのだ。
そう、皆が。