赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 46~49
「はい。もう結構。本日は、このあたりで止めにしましょう」
心ここにあらずという雰囲気で、ポンポンと大鼓を叩いていた清子を
市が、簡単に見抜いてしまう。
稽古が始まり、まだ、15分も経っていない。
「湿っぽい、うわの空の大鼓なんか、いくら響かせても時間の無駄。
そんなもの。いくらお稽古しても埓(らち)があきません。
あんた。嘘のつけない不器用な子だねぇ。
おおかた喜多方の10代目と、密約などを決めてきたとみえる。
なにやら悪だくみが進行している気配が、プンプン漂っております。
表情が沈んでいるのは、行き詰まってる証拠でしょ。
相談に乗るから、白状しなさい」
「あら・・・ご指摘の通りです。
でも何で市奴お姐さんに、簡単に見抜かれてしまったのでしょうか?。
10代目とあたしだけの、秘密の約束ごとなのに」
「お前さまの顔に、書いてあります」
「そのようなことは、絶対にないと思います。
今朝は時間をかけて、丁寧に洗顔をいたしました」
「ということは、洗顔の手抜きをすることもあるのですね。あなたは」
「はい。時には承知で手抜きをします!」
「ははは。嘘のつけない子だね。お前って子は。
言ってごらん。困っているのなら、あたしが力になってあげるから」
「こちらでの滞在を、1ヶ月ほど延期したいのです」
「滞在を一ヶ月伸ばす?。
なんだい、何かやりたいことでも見つけたのかい?」
「見つけたものの、対処の方法に苦慮しております。
春奴お母さんや小春お姐さんに、どのように言い出せばよいのか
苦心しております。
10代目と約束したものの、良い考えが浮かばず、難渋しております」
「10代目と、どんな約束をしたんだい?」
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 46~49 作家名:落合順平