赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 41~45
「喜多方のラーメンの食べかたには、流儀があるの。
最初の一口はレンゲを持たず、丼をそのまま口に運ぶの。
体裁を気にせず、音をたてて、ズズズ~ッと思い切りすすってしまう。
そうすると、美味しいスープが口の中いっぱいにひろがる。
感動で、脳みそが歓喜の喜びに震えるわ。
遠慮しないで、清子もやってごらん」
恭子が見本をみせてくれる。清子も丼を口に運ぶ。
ずずっと音を立てて、思い切りスープをすすっていく。
恭子が言っていた通り、口の中いっぱいに、油と醤油の香りが広がっていく。
それがまた、なんともいえず心地よい。
ラーメンスープに含まれている幸福の味わいが、清子の脳みそを
一気に駆けめぐる。
『うわ~、本当だァ・・・・最高です!』
清子が満面に笑顔を浮かべる。
ラーメンスープをすすった瞬間。
喉を通り、口の中にひろがっていく油の風味の善し悪しで、脳がおいしさを
判断する。
ラーメンは、オリジナルの中太ちぢれ麺。
噛み締める食感を、なによりも大切にしている。
喜多方で定番の、細い縮れ面よりも、すこし厚めの麺になっている。
ダシは、伊達鶏と煮干。昆布と香味野菜を使用したシンプルなもの。
太く縮れているこの店の麺は、油によくからむ。
そのため。こだわりの香りと旨みを、存分に楽しむことができる。
油がたっぷり入っているのに、えぐみや臭みがまったく無い。
澄んだ味わいとともに、鼻に抜けてくる魚介の香りが、なんともまた心地よい。
食べ進めるうち、ドンブリの中で「うまさ」が循環していく。
スープはもちろん。麺とチャーシューから、たっぷり旨みが染み出してくる。
旨みが、ことごとく麺に絡まる。
食べすすめている間、味がどんどん変化を遂げていく。
最初と最後の一口では、まったく別物のように感じられる。
ペロリとラーメンを平らげた清子が、カツ丼とカレーの前で姿勢を正す。
『おっ、清子。気合が入ってきましたね。見るからにやる気満々です。』
恭子が目を細めて清子をみつめる。
「だってぇ。身体をたくさん動かしたんですもの、お腹はぺこぺこです。
明日からしっかりカロリー計算して、体重管理をいたします。
でも今日だけは見逃してください。うふふ・・・
あふれてくる食欲を、抑えることができません!」
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 41~45 作家名:落合順平