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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 41~45

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 もはやこれまでと、たまが覚悟を決める。
横滑りしたたまの目の前に、階段の傾斜が迫って来る。
『もうだめだ!』たまが、両目を閉じる。
「なにやってんだい、お前。朝っぱらから、こんなところで?』
ヒョイと首が掴まれ、たまが吊りあげられる。

 「磨いたばかりの廊下を暴走するなんて、なにを考えているんだ、このバカは。
 誰が見ても、ツルツル滑ることなど簡単にわかるだろう。
 もう一歩、あたしが上がってくるのが遅ければ、お前さんは
 階段から滑り落ちて、
 救急車を呼ぶか、坊主を呼ぶかの大騒ぎになった。
 あ。子猫が一匹、階段を落ちて怪我したくらいで救急車はやって来ないか。
 あっはっは」

 たまを抱きあげた市が、ドアから顔だけ出してこちらを見つめている3人に
気が付く。
清子と小春。恭子の呆れた顔がそこにある。
なるほど・・・そういうことですか。市もようやく事態に気が付く。

 『何がはじまったのかと思ったら、大和屋酒造の長女が、
 小春を訪ねてきたわけですか。
 小春の面食らった様子から見ると、どうやら突然の訪問のようです。
 なるほど。小春が窮地に陥ったわけですね。
 で、何とかしてこの場の空気を、やわらげる必要がでてきた。
 重い気配を察したお前が、ひと芝居を打ったわけか。
 やるじゃないかお前。
 見直したよ、たま。へぇぇ・・・・』

 あわてて駆け寄って来る清子へ、たまを、ほらと乱暴に投げ渡す。
しかし。上から下まですっかり外出の支度を整えている清子の様子を見て、
ヒョイとまた、たまを取りあげてしまう。

 「なんだ。出かける用意が、すっかり整っているじゃないか。
 じゃそのまま、お友達と遊びに行っといで。
 おや・・・どなたかと思えば、そちらは先日の大和屋酒造のお嬢さん。
 なるほど。清子を誘いに来てくれたのですね。
 わたしたちは、大助かりです。
 こんな気のきかない無粋な子ですが、本日一日、よろしく
 面倒みてくださいな」

 成り行きを見守っていたたまが、清子が出かけると聞いて、
市の手の中で、ジタバタ暴れはじめる。
『こらこら。お前は今日はお留守番だ。どうしても出かけたいというのなら
あたしゃ構わないが、後でお前がきっと困ることになるよ』
たまの耳元で、市がささやく。


 『え?。あとでおいらが困ることになる・・・』
たまの耳元へ、市がさらにつぶやく。

 『午後になったら、春奴姉さんと豆奴がここへやってきます。
 ついでに、ミィシャを連れてきてくれるそうです。
 どうするのさ、お前。
 清子と出かけたいのなら、勝手について行くがいい。
 でも、そうしたら、愛しいミィシャには会えないよ。
 どうするお前。
 やっぱり本命は、清子よりミィシャだろう。うふふ』

 市の言葉に、たまが細い目をさらに細くする。
『ニャア~』と甘える。
見たこともないほど顔をふやけさせたあと、目尻をだらしなく、
ぐっと下までさげていく。

(45)へ、つづく