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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅸ

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「少し、甘いね」
「オレンジのリキュールが入っているって聞きました。あ、どんな味なのか、先に言えばよかったですね」
「いや、この優しい色と味わいは、君のイメージそのままだ。すべてを言わなくても、黙って、分かってくれる……。そんな感じだね」
 美紗は顔が強く火照るのを感じた。一方の日垣は、グラスを少し持ち上げて、中の透き通る青を覗くように見つめた。
「このカクテルを作ったバーテンダーさんは、さすがプロだけあって、少し話しただけで、相手の気質が分かるんだろうね。それとも、『みさ』という語感から、色的なインスピレーションを得たのか……」
 下の名前を口にされて、ドキリとした。日垣の顔を見ることができずに、かわりに彼の手の中にあるブルーラグーンを見つめる。

 青と紺の合間のようなカクテルの色
 冷たい雨の夜に独りで見た、イルミネーションの色
 大事なことを諭すかのように鋭く光っていた青い海と、同じ色

 しかし、今、華奢なグラスの中にある「青い海」は、彼の大きな手に優しく抱かれて、あの時とは違う、優しい光を降りこぼす……。

「……さん? 大丈夫?」
 美紗はびくりと震え、肩にかかる黒髪をわずかに揺らした。
「あ、すみません。少し、ぼうっとして……」
 中身が半分ほどになったカクテルグラスをテーブルに戻した日垣は、遠慮なくクスリと笑った。
「少し酔った? 珍しいね」
「いえ、あの、……そのカクテルの色のような場所のことを思い出して……」
 美紗は、言い訳をする子供のように慌てて言葉を継いだ。
「場所? イルミネーションか何かの?」
「あ、そうです。お庭のようになった所がイルミネーションで飾られているんですけど、青一色に光っていて、海みたいで……」