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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅸ

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「そう、してるつもりですが……、どうやったらいいんですかね?」
 独身の小坂と宮崎が遠慮なく笑うと、イガグリ頭は照れ隠しに声を荒げた。
「大事な話だぞ。お前らも後学のために聞いとけっ」
「拝聴させていただきます」
 調子のいい若手二人に、高峰は苦笑いして肩をすくめた。その横で、佐伯もひょろりとした上半身を高峰の方に向けた。
「いやいや、完璧な策なんて、自分にも分かりませんよ。何となく思うのは、カミさんが淋しそうにしていないか、時々観察していたほうがいいんかな、と。それで、もしそんな様子があったら、ちょっとでいいから構ってやる。単身赴任になってしまうと、それも難しいですが、気になった時に電話一本入れるだけでも、なかなか効果的かと思うんですよ。そういえば、日垣1佐にも『クリスマスには奥さんに電話してやったら』なんて話しましたねえ」
「はあ、そういうもんですか。なるほど……」
 松永は、何か心当たりでもあるのか、さも納得したという顔で何度も頷いた。そして、にわかに顔を曇らせた。
「それじゃ、高峰3佐こそ、今日は早く帰ったほうが」
「いやいや、我が家に関しては心配ご無用です。うちの家内は酒好きでしてね、帰りにシャンパンでも買ってってやれば上機嫌になっちまう、ホントにお気楽な奴なんですよ」
 高峰はにまりと笑った。そして、ちらりと壁時計に目をやると、
「と言うわけで、只今より『班長代理』を拝命いたします。はい皆さん、帰った帰った。班長命令です」
 と言って、手で追い払うジェスチャーをした。松永と佐伯が素直に追い立てられていった。続いて、宮崎が立ち上がった。よく見ると、普段にもまして艶のあるグレーのスーツに青色のシャツでバッチリ決めている。左腕にはブランド物らしい時計まで光っていた。それを、小坂が物欲しげに見つめた。
「宮崎さん、デートのお相手って、……どっち?」
「知りたい? ダイエットに成功したら教えてあげるわよ」
 宮崎はオネエ言葉で鋭く切り返すと、美紗の背後を歩き過ぎながら、低い声で囁いた。
「迷うのは、取りあえず事務所出てからにしなよ」
「えっ……」
 美紗が言葉を継ぐ前に、宮崎の姿は部屋の外へと消えた。