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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅸ

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「総務課のクーリエ(文書の運搬係)では受領できないものですよね。私のクリアランス(秘密情報取扱資格)で問題なければ、取りに行ってきます」
「ホント? 悪いねえ」
 銀縁眼鏡の前で手を合わせる宮崎に、美紗は微かな笑みを返した。そして、松永に軽く会釈をすると、書類ホルダーを持って席を立った。

 小柄な後姿がドアの向こうに消えるのを見送った小坂は、ふてくされた顔で椅子にふんぞり返った。
「あーあ、良かった。取りあえず『お仲間』がいて。オレ一人だけ職場で淋しいクリスマスじゃ、やってられんわ」
 ふざけ半分に口を尖らす3等海佐に、宮崎は肩をすくめた。
「ホントに、まだまだ観察が甘いわねえ」
「何で?」
「彼女、たぶん独りじゃないわよ」
 銀縁眼鏡がギラリと光る。
「えっ……。でもさっき、鈴置さん、クリスマスの予定ないって……」
「彼氏と遠距離、という可能性もある」
 オネエ言葉から急に普通の言葉遣いに変わって声を低めた宮崎に、小坂は目を見張りつつ、耳を寄せた。
「何かそのテの情報でも?」
「そういうわけじゃないけど……。鈴置さん、夏が終わったぐらいから、急に落ち着いて、何となく綺麗になった感じしない? 思っていることをあまり態度に出さなくなったし、それに、ああいう立ち回りもうまくなったような気がする」
「立ち回り?」
 きょとんとする丸顔に、宮崎はそれ以上を語ろうとはしなかった。


 十二月二四日に日垣貴仁と会えないことは、分かっていた。その日は金曜日ではないからだ。彼と「いつもの店」で会うのは、金曜の夜だけと決まっている。翌日が休みでない夜に二人で会ったのは、美紗が二十六歳の誕生日を迎えた日だけだった。