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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅸ

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「大須賀さんの好みは日垣1佐だって、言ってたじゃないすか」
 キーボードを叩いていた美紗の手が一瞬止まる。しかし、右隣にいる小坂は、それに気を留める余裕もなく、無情な現実に一層大きなため息を吐いた。
「ダイエットでもしてみるかあ。縦方向には如何ともしがたいけど、横を少し引っ込めれば、日垣1佐を縮小したシルエットになれるかも」
「それは良い考えかもしれん」
 小坂の向かいに座る高峰3等陸佐が、口ひげをいじりながら目を細めた。
「動機はともかく、今のうちに少し痩せたほうがいい。このまま順調に太って、夏Ⅰ種が着られなくなったら大変だぞ」
「それは……」
 ぎくりと顔を歪ませる先輩に、片桐は黙って肩を震わせた。
 自衛隊の制服には夏冬の別があるが、夏服はさらに、上着を着用するⅠ種、長袖シャツにネクタイのⅡ種、半袖シャツのみのⅢ種、の三種類に分かれている。陸自と空自の夏服の上着は色も襟の形も冬服と同一だが、海自のそれは白の詰襟である。首が太くて一番上のボタンを留められないなどという事態になれば、海自幹部としては一大事だ。
 今は黒いダブルスーツ型の冬服を着る小坂は、自分の腹を見やると、キッと顔を上げた。
「決めた。明日から昼休みに走ろ。片桐、オレに付き合え」
「いいっすけど……。来年の夏はともかく、クリスマスにはとても間に合わないすよ。緩めのシルエットを好む女性を探したほうが、まだ可能性あると思うんすけど」
「失礼な奴だな。そういうお前はどうなんだよ。二四日に会う彼女なんている……」
 小坂の言葉が終わらないうちに、片桐は堪えきれないと言わんばかりの笑みを顔いっぱいに浮かべた。
「何、その余裕のツラ。めっちゃムカつくわ。クリスマスイブの夕方に、何か仕事でも押し付けてやる」
「勘弁してくださいよ。たぶん独身最後のクリスマスになるんすから」
「何それ? お前、結婚すんの?」
 間の抜けた大声に、「直轄ジマ」にいた全員が一斉に片桐を見た。
「何だ片桐、報告がないぞ、報告があっ」
 イガグリ頭に怒鳴りつけられ、片桐は縮こまった。それでも顔は嬉しそうに緩む。
「あ、CS(空自の指揮幕僚課程)入校して落ち着いた頃に、と思ってたんすけど……」