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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅸ

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(第八章)アイスブレーカーの想い(4)-許されざる聖夜①



 十二月も半ばを過ぎると、意気揚々と仕事に励む片桐1等空尉の斜め向かいで、ずんぐり体形の3等海佐は、しきりとため息をつくようになった。
「小坂3佐、最近、元気ないわねえ。愛しい後輩が春に転属かと思うと、居てもたってもいられないのかしら?」
 内局部員の宮崎が銀縁眼鏡を光らせながらオネエ言葉を口にすると、小坂が何か言うより早く、片桐が椅子ごとそろりと後ろに下がった。
「小坂3佐。気持ちは嬉しいっすけど、僕、そういう趣味ないんで」
「誰がそういう趣味だよ!」
 小坂は、腰を浮かせてふざけ半分に声を荒げたが、すぐにへなへなと座り込んだ。
「大丈夫よ。市ヶ谷と目黒なんて、すぐ近くじゃない。電話一本で会えるわよ」
「宮崎さん……」
 手を口に当てて奇妙な笑い声を立てる宮崎に、二人は揃って嫌そうな顔を向けた。
 指揮幕僚課程の教育は、目黒にある幹部学校で行われる。そのため、入校が決まった片桐は、年度末をもって統合情報局を去ることになっていた。しかし、小坂の気がかりは、気心知れた後輩の人事とは全く別のことだった。
「彼女、クリスマス、どうすんのかなあ」
「大須賀さんのことすか?」
 元の位置に座り直した片桐が、今度は若干身を乗り出して、小声で応じる。
「彼氏っぽいのは、やっぱいなさそうなんだけどなあ」
「何でそんなこと分かるんすか」
「情報収集はオレの得意分野だ。なにしろ情報局勤めだからな」
「分析に主観を交えるのは禁物っすよ」
 片桐がしたり顔で茶々を入れると、「直轄ジマ」の長の席に座る松永が呆れ顔で鼻を鳴らした。
「御大層なお言葉だな。去年、お前自身が日垣1佐に散々言われてたくせに」
「おかげ様で、すっかり身につきました」
 片桐は得意の減らず口で返すと、小坂のほうにすまし顔を向けた。
「希望的観測は、正確な分析を妨げます」
「うるせーな。そんなこと分かってるって」
「仮に、大須賀さんがフリーだとしても、小坂3佐、大事なトコ忘れてるっすよ」
「何だよ」