小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅸ

INDEX|17ページ/36ページ|

次のページ前のページ
 


「そこはもう勘ですね」
 征はやや照れくさそうに目を伏せた。
「これって、篠野さんオリジナルのカクテルなんですか?」
「ベースのテキーラをやや少なめにしていますが、基本のレシピは『アイスブレーカー』です」
「砕氷船?」
 可憐な色にはそぐわぬ、無骨な名。意外そうな顔をする美紗に、征はゆっくりと笑みを返し、向かいの席に座った。
「砕氷船、もしくは、氷を砕くもの。転じて、氷のように固く張りつめた気持ちを砕いて緊張をほぐすもの、という意味にもなります」
「緊張を、ほぐす……」
「日垣さんのお仕事のことはよく分かりませんが、ああいう方はやはり、何かと重圧を感じながら、日々を過ごしてこられたと思うんですよ。鈴置さんが傍にいてほっとした、というようなことが、おそらくたくさんあったかと……」
 美紗は、日垣がよく口にしていた言葉を思い出した。

『君は、細かい話をいちいち説明しなくても分かってくれるから、話していて本当に気持ちが和むよ』

「もしかしたら、鈴置さんが日垣さんを好きになるより先に、日垣さんのほうが鈴置さんのことを好きになっていたかも、しれませんね」
 インペリアル・トパーズが、急に高まった胸の鼓動に驚いたかのように、大きく揺れる。
「いわゆる男女の『好き』とは少し違う感覚かもしれませんが……。鈴置さんは、日垣さんの『アイスブレーカー』だった。僕は、そう思います」
 美紗は、わずかに頬を染めて、オレンジとピンクが混じり合うグラスを手に取った。口づけると、大きな手に肩を抱かれて静かに時を過ごしたことを思い出させるような、甘い味がした。
「アイスブレーカーのカクテル言葉は、『高ぶる心を静めて』です」
「でも、私は……」
 言いかけて美紗は口を閉じ、静かに首を横に振った。