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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅸ

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「鈴置さんのお誕生日の時は、どうしていたんですか?」
 美紗は、ドキリとして胸元を押さえた。問いかけてくる藍色の目は、ひどく優しげだった。
「日垣さん、お祝いしてくれたのでしょう?」
「……一昨年の誕生日に、誕生石のついたアクセサリーをくれました」
 一瞬だけ「去年はどうしたの」と言いたげな顔をした征は、それでも、淀みなく言葉を継いだ。
「鈴置さん、何月生まれなんですか?」
「十一月です」
「では、トパーズを?」
「日垣さんは、そう言ってたんですけど、でも、色が、違うんです。黄色じゃなくて、オレンジとピンクが混ざったような……」
 美紗は、白いブラウスの襟の下に指を入れると、中に隠れていたネックレスのチェーンをゆっくりと引き出した。続いて現れた楕円形の石は、ペンダントライトの灯りの下で、オレンジ色にもピンク色にも見える柔らかな光を放った。
「この色合いは、おそらくインペリアル・トパーズの一種ですね」
 和名で「黄玉」と呼ばれるトパーズは、黄褐色の宝石、というイメージが強い。しかし実のところ、この名を持つ石の色は無色透明から赤、黄、青と非常にバリエーションに富んでいて、中には人工的処理によって色が付けられている石もある。当然ながら天然物のほうがより高く評価され、中でも、「インペリアル・トパーズ」と呼ばれる種類のものは、屈折率が高く色みや輝きに優れるがゆえに、より高い値が付けられる――。
 そんなことを語りながら、征は、美紗の手の平に載せられた石を、眩しそうに見つめた。
「日垣さんは、お店の人に選んでもらったって、言ってました」
「じゃあ、宝石屋の言いなりに買わされてしまったのかもしれないですね」
「えっ……」
「大丈夫ですよ。売る方は、ちゃんと客の懐具合を見抜いた上で勧めてきますから」
 藍色の目がいたずらっぽく細まる。つられて美紗が口元を緩めると、征は安堵したような笑みを浮かべた。
「トパーズにいろいろ種類があるなんて、知りませんでした。篠野さんは、宝石にも詳しいんですね」