小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅸ

INDEX|14ページ/36ページ|

次のページ前のページ
 


「何を望んではいけないのか、分かっていました。でも、日垣さんがどこまで許してくれるのか、それしか、考えられなくて……」
 美紗は両手で顔を覆った。篠野征を名乗るバーテンダーに、記憶の中のバーテンダーの姿が重なる。二人分の藍色の目が、責め立てるように見つめてくる。
 
 望んではならないものは、共通の未来。

 望んではならぬものさえ望まなければ、誰も悲しませずに済むと思っていた。
 あの人が許す範囲のものを望んでいれば、限りある時間を大切に過ごせると思っていた。
 
 できることなら、どこまでも、許してほしいと願いながら……。


「許す? 日垣さんのほうが許すのですか?」
 わずかに首をかしげる藍色の目のバーテンダーに、美紗はうなだれるように頷いた。

 二人で会い続けることを
 腕の中に私を抱くことを
 共に夜を過ごすことを
 あの人は、許してくれた――。


「でも、誕生日に貴女が傍にいることを、許さなかった」
「それで、いいんです」
 美紗は目の縁に溢れる涙を何度もぬぐった。バーテンダーは、「そうですか……」と呟くと、目を閉じて椅子の背に身を預けた。黒いベストに付けられた金色の名札が照明の光を鋭く反射し、一瞬だけ「SASANO」と書かれた黒い文字がくっきりと浮かび上がった。美紗は思わず「あ」と声を上げた。
「やっぱり、篠野さん、ですよね。すみません。私、今、変なこと言って……」
「そんなことありませんよ」
 征は柔らかい笑顔を向けた。しかし、それはやはり、少年の域を出たばかりの初々しい笑みとは違っていた。つい先ほどまで見せていたはずの子供っぽい丸い目は、夜景を映す窓ガラスの中に見た幻影だったのか。自分より年下だと言っていた彼の人懐っこい言葉遣いは、静かな音楽の中に紛れた幻聴だったのか……。