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短編集3(過去作品)

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 息絶えてからの虫の行動は素早いもので、電光石火の早業とはまさにこのこと、あっという間に白骨化してしまった。その様子を一部始終見ていた住職だったが、ふと我に返ると、今まさに自分に危険が迫っていることを感じた。武者のすべてを食べ尽くした彼らの次の矛先が、間違いなく自分に向けられていると思ったからである。
 しかし・・・・・・、足がすくんで動けない。たいていのことであれば理解の範囲内と思っていたのだが、目の前で繰り広げられた光景が、弱肉強食というごく当たり前の自然の摂理であればあるほどそのリアルさが頭に強く残り、体をこわばらせてしまう。
 そんな住職の気持ちを知ってか知らずか、虫が住職の方へ向かってくることはなかった。それよりも落ち武者が持ってきたであろう麻袋のようなものに興味を示したのか、等間隔を保ちながらそちらへと移動していく。
 すべての虫がその中に入ったかと思うと、真っ赤に染まったかのように見えていた麻袋が黄金色に変わっていくのが見える。実に鮮やかな黄金色、あまりの強さに目をそむけたが、それでは収まらず肌を刺す鋭利なものに変った。
 その時の光がまさに、今目の前で繰り返されている。何百年も前に起こったことのいおくが住職の頭の中によみがえってくるのだ。もちろんそれを見たのは住職であるわけがない。ひょっとして自分の前世が見せたものかとも思ったが、後世がまた同じような環境で生まれてくるなどというそんな偶然はあり得ないと考えるならば、これは一体どう解釈すればいいのだろう。
──山に何か忘れてきた気がする──
 住職は頭の中で繰り返す。
 本来であれば人肉を食らいに一目散に住職の下へ這ってきてもいいはずなのにそれがない。昼と夜とでまったく性格の違う虫たち、彼らを目の当たりにして住職は思う。
──魂は不変なんだ──
 頭の中に聞こえてきたその声はまさしく住職の声だった。
 ゆっくりと前に進み出ると、虫たちの後ろに少し大きめの穴が掘られていることに気が付いた。その中にはかなり大きなものがあり、今までにないほどの強い黄金色であたりを照らしている。
「なぜ最初にこれに気づかなかったのだろう?」
 あまりの明るさに分からなかっただけであろうか?
 目が慣れてきてそれが何かわかってくるようになると、若さには自信のあった自分が次第に年を取っていくのを感じた。どうやら一気に時を飛び越えてしまったようだ。それはどうすることもできない自然の摂理で、死を目前にした自分だけが悟れることだったのだ。
 そう、今目の前に転がっているのは、黄金化した自分だった・・・・・・。


                (  完  )






作品名:短編集3(過去作品) 作家名:森本晃次