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⑥残念王子と闇のマル

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誕生日の約束


私が息を切らしながら私室へ飛び込むと、カレンが目を丸くして私をふり返る。

「麻流!…任務は?」

ちょうど着替えをしていたのか、下着姿のままカレンは駆け寄ってきた。

私はそんなカレンに、飛びつく。

無言でカレンを抱きしめる私を、カレンも抱きすくめた。

「どうした?麻流…。」

カレンが私の背中を優しく撫でながら、私を抱き上げる。

目の高さが合うと、心配そうにこちらを覗き込んできた。

私はそんなカレンの頬を撫で、そっと口づける。

軽く触れただけの口づけなのに、身体中に甘い痺れが走り吐息が漏れた。

「…ん…ふ…。」

(これが、媚薬のちから…。)

離れた唇を見つめた後、カレンと至近距離で視線を交わす。

「煽らないでよ。…できないんでしょ?」

上目遣いにこちらを伺うカレンが可愛くて、可愛すぎて…

「まだ、大丈夫です…。だから…誕生日…お祝いさせてください。」

私は首に腕を回して、ぎゅっと抱きついた。

あともうちょっとで0時になる。

「…パーティー、明日してくれるんでしょ?」

カレンは言いながら、私を抱いたまま歩き始めた。

「…それが…任務で、参加できそうにないんです。」

カレンは寝室のカーテンをくぐりながら、私を見つめる。

「なんで今更、任務?僕の専属でしょ?」

ベッドへ降ろされ、問い詰められた私は必死で言い訳を探した。

「…以前、私が請けた任務の、後始末です…。」

適当な言い訳だったけれど、カレンは素直に信じてくれる。

「そか…。大丈夫なの?危険はないの?」

頭を優しく撫でられると、体に甘い痺れが走り、カレンのその大きな手に頬をすり寄せた。

「はい。それは…大丈夫です。ただ、長くかかるかもしれません。」

私の言葉に、カレンが目を見開く。

「…どのくらい?」

震える声で、カレンは私の腕を掴んだ。

「最低でも…1年以上はかかります…。」

その瞬間、息が止まりそうなくらい強く抱きしめられた。

「どこ行くの?」

いつになく、声が低く鋭い。

「…守秘義務があるので、言えません。」

私の答えと同時に、ベッドに押し倒された。

「それ、麻流じゃないと駄目なの?」

いつもは穏やかなエメラルドグリーンの瞳が、今は鋭く険を帯びている。

「…はい。私にしかできない任務です。」

私は目を逸らさず、その瞳をジッと見つめ返した。

「夜半過ぎには行かないといけないので…」

カレンの首に腕を回して、引き寄せる。

「日付が変わる瞬間だけでも一緒にいたくて、戻ってきました。」

カレンは私の首筋に顔を埋めると、そこへ口づけてきた。

「ほんとに、いいの?」

耳たぶを舐められた瞬間、身体中が熱くなる。

「はい…あっ…。」

思わず漏れた声に煽られるように、カレンの身体もどんどん熱を帯び、服の上からの愛撫も激しくなってきた。

「…カレン…。」

甘い痺れに翻弄されながら、私は服を脱がされる前にポケットから小箱を取り出す。

そして私の服のボタンを外しながら深く口付けてきたカレンの左耳たぶに、ピアスをつけた。

「…え?」

カレンが驚いて身を起こしたので、私はもうひとつのピアスを指でつまんで掲げて見せる。

「二十歳のお祝いです。」

カレンの瞳がピアスをとらえたのを確認して、私は右耳たぶにもそれをつけた。

「誕生日プレゼント?」

カレンが細くて長い指でそれを触りながら、戸惑った様子で私を見つめる。

「はい。…大したものでなくて申し訳ないのですが…カレンの瞳の色とそっくりのエメラルドを見つけたので、どうしてもお渡ししたくて…。」

私が微笑むと、カレンの瞳が潤んだ。

「マルから、初めてプレゼント貰った♡」

泣き笑いのような表情で、カレンは微笑む。

「そうだ!たしか…ソラ様とセイカ様は、互いのピアスを片方ずつ交換していたよね。」

そう言うと、カレンは素早くベッドから降り、クローゼットの中から小箱を取り出した。

「これ、ほんとは正式に婚約した時に渡そうと思ってたんだけど…。」

ベッドを軋ませて腰かけるカレンの隣に、私も座る。

「今、あげとくね。」

言いながら開かれた小箱には、シンプルなデザインながらも華やかな金のピアスが入っていた。

よく見ると、おとぎの国の紋章が入っている。

驚いてカレンの横顔を見上げると、それをひとつ手に取って微笑む彼と視線が絡んだ。

「これは、代々王妃に受け継がれてきた、婚約の証。」

(王家の…!?)

驚く私をよそに、カレンは自分の耳についたエメラルドのピアスをひとつ外すと、その小箱にしまう。

そしてその金のピアスを、右耳たぶにつけた。

にこっと微笑んだカレンは、私の左耳たぶに手を伸ばす。

「ま…待ってください!」

思わず後ろへ飛び退いた私は、首を左右にふる。

「そんな大事なもの、頂けません!」

すると、カレンは輝く笑顔で私を見つめた。

「だって、これはもうマルのだよ?」

私はお腹を押さえながら、首を激しく左右にふって更に後ずさる。

その時、カレンの表情が突然曇った。

「マル…なんで泣くの?」

私はいつの間にか、大粒の涙を流していたようだ。

慌てて手で涙を拭うけれど、涙は後から後から溢れてくる。

「に…任務で落としたらいけませんし…。」

必死で言い繕う私を、カレンが怪訝な表情で見つめる。

ピアスの小箱をパタンと音を立てて閉じると、ベッドサイドのミニテーブルに置いた。

「マル。」

腕を掴まれたと思った瞬間、逞しい胸に抱きしめられる。

その瞬間、壁時計から軽やかな音楽が鳴り、私達に日付が変わったことを知らせた。

カレンは至近距離で私を覗き込むと、涙を長い指で拭ってくれながら妖艶に微笑む。

「二十歳になっちゃった♡」

濡れた私の頬を優しく撫でながら、首を傾げた。

「『おめでとう』って、言って?」

私は笑顔を作ろうと、口角を上げる。

「…おめ…」

けれど、なぜかうまく言葉が出ず、涙が溢れだした。

カレンはそんな私の頭を大きな手で撫でながら、唇を啄む。

「待ってるから、必ず帰って来なよ。」

いつもより少し低めの声で、優しく囁くカレンは、とても年下には見えなかった。

「マルが頑張ってる間に、僕も今よりもっと頼りになる、イイ男になってるからさ。…だから、寄り道しないで、必ず帰って来て…」

そこから先は、始まった深い口づけで消えてしまう。

そして絡み付くカレンの熱情は、いくら私が身をよじって喘いでも決して離すまいとするかのように熱く強く、今までで一番優しいものだった。

媚薬でいつも以上に激しく快楽に溺れる私を、カレンは何度も何度も抱いて愛してくれた。

カレンを何度も受け入れ、もう意識が朦朧としながらも、私はまだカレンを欲してその首を胸に掻き抱く。

「約束して…マル…。」

汗を滴らせながら獣のように荒い呼吸を繰り返すカレンが、鋭い視線で私をとらえた。

「必ず帰って来る、って約束。…してくれたら、マルが欲しいだけ僕をあげる…。」
作品名:⑥残念王子と闇のマル 作家名:しずか