⑥残念王子と闇のマル
手に乗せられた袋は夕方頂いたものより大きめで、私はそれを胸に抱きしめた。
「麻流。」
長身の兄上が私の前に屈み、下から覗きこんでくる。
「今、母上がカレンを私室に連れて行った。」
私が目を見開くと、兄上がゆっくりと頷く。
「任務が入った、ってことにして、とりあえず今晩は紗那の部屋におまえを隠すってさ。」
「明日の…誕生パーティーは…。」
兄上は私の瞳を、大きな碧眼で真っ直ぐに見つめてきた。
「…無理じゃね?」
その言葉に、心臓が止まる。
ふるふると左右に首をふる私の腕を掴むと、立ち上がった兄上は先程まで晩餐会が開かれていた部屋へ私を連れて行った。
そして、兄上が扉を開け、室内に一歩入った瞬間。
「うっ!」
会場に残る食事の香りが、鼻につく。
激しい吐き気に襲われ、口をおさえながら私は床に倒れ込んだ。
急いで父上から頂いたカプセルを噛み砕き、なんとか呼吸を整えようとゆっくりと深呼吸する。
そんな私の背中をそっとさすりながら、兄上が再び私の顔を覗き込んできた。
「無理だって。」
「…やだ…嫌だ!」
私は押し殺した声で叫ぶと、お腹に手を添え、撫でる。
「お願い…お願いよ…。」
お腹の子に願うものの、吐き気はどうにもならず私の頬を涙が伝い落ちた。
「あと一日しか一緒にいれないんだから…!」
私は、床を拳で何度も殴る。
そんな私を、楓月兄上は優しく横抱きにした。
兄上の体から、仄かにワインの香りがする。
なぜか、その香りで吐き気がおさまってきた。
「…この子…ワイン好きなのかな…。」
兄上に優しく抱かれてゆらゆら揺れていると、急激な睡魔に襲われる。
私は抵抗する間もなく、睡魔にあっさりと飲み込まれ、意識を手放した。
作品名:⑥残念王子と闇のマル 作家名:しずか