⑤残念王子と闇のマル
思わずフォークをお皿に置くと、カレンが首を小さく傾げる。
「な~に暗い想像してんの♡」
そして輝く笑顔で肉料理をフォークで刺して、私に差し出してきた。
「ほら、あーん♡」
あまりの可愛さに一気に頬が熱くなりながら、私はそのお肉をぱくっと食べる。
「可愛い~、マル♡」
(そういうカレンが、可愛い…。)
私が照れ笑いを浮かべると、カレンも幸せそうに微笑んだ。
料理は冷めてしまっていたけれど、二人で心を交わし合いながら食べる食事は、何より美味しかった。
「じゃ、寝るか~♡」
寝支度をととのえたカレンは背伸びをすると、当たり前のように私を抱き上げる。
「いや、歩けますから。」
私が降りようとすると、カレンが逃がすまいとギュッと抱きしめてきた。
「さっき離れてたぶんの補充♡」
そう言いながら、カレンは横抱きにした私に覆い被さるように唇を重ねる。
お酒の香りのする深い口づけにじょじょに体から力が抜け、私はカレンの首に腕を回した。
「やばい。」
唇を少し離して、カレンが呟く。
「これ以上は、抑えられなくなっちゃう。」
熱を帯びたエメラルドグリーンの瞳と至近距離で見つめ合った後、私はギュッとカレンの首に抱きついた。
「抑えなくて、いいですよ。」
耳元で囁いた瞬間、息が詰まるほど力強く抱きしめられる。
「ダメだよ。まだ熱が下がったばかりじゃん。」
首筋にかかるカレンの熱い吐息に、私は背筋をふるわせた。
「傷が開いちゃうかもしれないし。」
いつの間にか寝室に来ていたようで、優しくベッドに下ろされる。
「紗那様と馨瑠様に、早く治してもらわないとね♡」
ベッドを軋ませながら横たわったカレンに、そっと抱き寄せられた。
「…カレン。」
想いが溢れた私は、カレンの胸にギュッとしがみつく。
すると、カレンの胸が小刻みに揺れ、喉の奥で笑う声が直接耳に届いた。
「煽らないでよ。」
言いながら、私の顎をそっと上向かせる。
「どうしたの?今日は。」
澄んだエメラルドグリーンの瞳にのぞきこまれ、私は溶けるように想いを素直に口にした。
「…なんだか、不安なんです。」
「不安?」
眉根を寄せ微かに揺れたその瞳を、私は見つめ返す。
「早くカレンのものにならないと、カレンに…ここへ置いて行かれてしまう気がして…。」
カレンは少し目を見開くと、私と視線を交わしたまま固まったように動かなくなった。
(…はしたないこと言ったから、幻滅された?)
急激に羞恥に襲われた私は、カレンから視線をはずすと背中を向ける。
「い…今のは忘れてください!」
火が出そうなほど身体中が熱くなった瞬間、カレンに後ろから抱きすくめられた。
いつもより荒くて熱い吐息が、首筋にかかる。
「絶対、置いてなんか行かないよ。」
言いながら、首筋に唇が押し当てられた。
「僕だって早くマルのすべてを僕のものにしたい。」
言いながら、熱い手で体を撫でられる。
「…ん…。」
思わず甘い吐息を溢すと、カレンがギュッと力強く抱きしめてきた。
「でも、香りの都でも言ったけど…おまえが大事なんだよ。」
私が首だけふり返るとその腕の力はゆるみ、そっと唇が重なる。
深い口づけを交わしながら体をカレンのほうへ向け、その胸元をきゅっと握った。
「自分の欲望に任せて、衝動的に抱きたくないんだ。」
カレンは息継ぎの合間にそう囁くと、私の唇をペロッと舐める。
「マルの肩の傷が塞がって、ガーゼとか包帯とかが取れたら…抱いていい?」
至近距離で見つめられ、身体中が心臓になったかのように脈打ち始めた。
私が頬を熱くしながら小さく頷くと、カレンはエメラルドグリーンの瞳を半月にして華やかに微笑む。
「…も~、なんだこのリンゴ頬っぺたは!」
言うと同時に、頬へかぶりつかれた。
そして、はむはむと甘噛みされ、ちゅっと吸われる。
「やっ!ほんとに食べないでください!!」
私がもがくと、カレンが声をあげて笑いながら再び私を抱きしめた。
「傷が塞がったら、マルごと食べちゃうからな!」
おどけた様子で私の頭を胸に抱き込むと、カレンは頭に頬を寄せ優しく後頭部を撫でる。
「だから、安心して寝な?」
私は甘えるようにカレンの胸にしがみついて、目を閉じた。
「完食しないと…許しませんよ。」
すると、カレンが私の背中を撫でながら笑う。
「ふふ。じゃ、おかわり何回まで?」
「え!?」
驚いて顔を上げると、悪戯な笑みを浮かべたエメラルドグリーンの瞳と目が合った。
「あはは!!」
カレンが全身をふるわせて、大笑いする。
(~~~!19歳にしてやられた!!)
膨らんだ私の頬に、カレンは優しく口づけた。
「覚悟しといてよ。」
甘く囁いたカレンは私を撫でながら目を瞑り、すぐに静かな寝息を立て始める。
(酔ってたし、疲れたんだな。)
無邪気なカレンの寝顔を見上げながら、私もその優しい温もりに身を委ねた。
「おやすみなさい、カレン。」
作品名:⑤残念王子と闇のマル 作家名:しずか