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⑤残念王子と闇のマル

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驚いてふり返ったカレンのエメラルドグリーンの瞳が、まん丸になる。

そして次の瞬間、大輪の花が咲くように笑った。

「はい、ぜひ!」

カレンは母上に改めて向き直ると、頭を下げて丁寧に挨拶をする。

「女王様、それではお言葉に甘えて失礼致します。これから暫くの間、よろしくお願い致します。」

そんなカレンに、母上も柔らかな笑顔を返した。

「気をつけて、いってらっしゃい。」

カレンは瞳をキラキラ輝かせると、頬を紅潮させて大きく頷く。

「はい!」

そしてその可愛い笑顔のまま、私を真っ直ぐに見つめた。

「じゃ、マル。ゆっくり休んでね。」

言いながら頬を優しく撫で、顔を近づけてくる。

「寂しくて、泣かないでよ?」

柔らかな感触は一瞬で、チュッと音を立ててすぐに離れたけれど、私の顔は焼けるように熱くなった。

「…行こうか…。」

カレンの肩を再び掴んだ指は、爪が白くなるほど力が入り微かに震えている。

銀河叔父上の顔を見れば、口角は上がって笑みを浮かべているものの、その切れ長の三白眼は冷ややかな苛立ちをたたえて光っていた。

「…はい。」

カレンは痛みと恐怖に顔をひきつらせながら、笑顔で返事をした。

そしてカレンは父上や太陽叔父上に頭を下げると、カバンからノートとペンを取り出す。

「銀河様に教えていただきたいことがあったんです!」

「…なんだ?」

話しながら、二人は肩を並べて寝室から出て行った。

「農作についてなんです。花の都の領土はちょうど平野部と山間部が半々の広さとなっていて、平野部の土壌にミネラルを多く含んでいるとのことですが…」

(しっかり勉強してきてたんだ…。)

あっという間に遠ざかる足音と声に、私はホッと息を吐いてゆっくりと瞼を閉じた。

「じゃ、至恩は剣の鍛練に行こうか。」

太陽叔父上が至恩を連れて部屋から出て行く。

母上は偉織を女官に預けると、ベッドサイドに椅子を持ってきて静かに座った。

「空はどっち?視察に同行?」

「ん。」

太陽叔父上の問いかけに短く答えると、父上の気配が消えた。

「理巧は鍛練に来る?」

「星一族の修行へ行きます。」

言いながら、理巧の気配も消える。

「だ~れも鍛練に来ないね。」

至恩の言葉に、太陽が大袈裟にため息を吐いた。

「士気と技術向上に協力してくれてもいいのにな~!おまえの父上と兄上は冷たいなぁ!」

そして明るく笑いながら太陽叔父上と至恩の足音も遠ざかる。

先程まで賑やかだった室内に、母上と二人きりになった。

(母上と二人きりなんて…幼い頃ですらないかも。)

私は幸せな気持ちのまま、再び深い眠りに落ちていった。
作品名:⑤残念王子と闇のマル 作家名:しずか