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④残念王子と闇のマル

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『王子様、私共がそのようなことは…。』

慌てて騎士が追ってきたけれど、カレンはそれを笑顔で制する。

『僕らにとって馬達は、旅仲間なんです。自分で世話をしないと、乗せてもらう資格ありませんから。』

会釈をすると、騎士達は黙って見送ってくれた。

カレンは鼻歌を歌いながら、厩舎へ向かう。

扉を開けた瞬間、お留守番していたリンちゃんが甘えるように嘶いて出迎えてくれた。

「ただいま~、リンちゃん♡お留守番させて、ごめんね~。」

カレンは私を抱いたまま、リンちゃんの頬に口づける。

リンちゃんは嬉しそうに鼻を鳴らして、何度も首をふった。

「ふふっ、可愛いなぁ♡」

カレンはリンちゃんに頬擦りした後、私を木箱にそっとおろす。

「マルはここに座って待ってて。」

腰を浮かそうとした私を素早くふり返り、鋭くもう一度念をおす。

「傷に障るから!ジッとしてなよ。」

渋々座り直す私を見て、カレンは満足げに微笑んだ。

そしてひとりでテキパキと掃除をし、餌と水を与える。

「星、おつかれ!今日は星のおかげで助かったよ♡」

カレンは星の体にブラシをかけながら、笑顔で話しかけた。

「星はやっぱり忍の馬だけあって、いい体してるね~。乗ってて揺れないのは、この筋肉のおかげなんだろね。」

カレンに褒められ、星は得意気に鼻を鳴らす。

星のブラシかけが終わると、リンちゃんにうつった。

「リンちゃんは相変わらず綺麗だね~♡なかなかこんな美人な馬はいないよ~♡」

カレンの言葉に、リンちゃんも嬉しそうに目を細める。

(本当に面倒見がいいなぁ。)

その愛情深いところに、私は惹かれたのだ。

父上も、使役狼たちの世話を甲斐甲斐しくしていた。

(口下手なので、カレンみたいに話しかけたりはなかったけれど…いつも穏やかな顔で狼達を見ていたなぁ。)

私は幼い頃から父上に憧れていたので、カレンが父上と同じように動物を可愛がる姿を見た時に、カレンへ惹き込まれたのを覚えている。

(子煩悩な父親になりそ…。)

そこまで考えた時、顔に火がついた。

(な…なに考えてんの!?)

自分の妄想に驚いてあたふたする私を、カレンが手を洗いながら見た。

バッチリ目が合って、思わず逸らしてしまう。

そんな私の目の端に、カレンがこちらへ歩み寄ってくるのが見えた。

鼓動が激しく高鳴り、恥ずかしさに逃げ出したくなる。

(顔も耳も熱いし…絶対なにか言われる!)

カレンは私の前で立ち止まると、身を屈めた。

「ハンカチ貸して~、マル。」

(…。)

私はポケットからハンカチを出すと、カレンへ渡す。

「ありがと♡」

手を拭くと、カレンは満面の笑顔で返してきた。

「お待たせ♡行こっか。」

(…気づいてない?)

ホッとしたような残念なような複雑な気持ちになりながら、カレンに抱き上げられる。

「マル。」

名前を呼ばれカレンを見ると、思いがけない至近距離で目が合った。

また鼓動が跳ねた瞬間、エメラルドグリーンの瞳が悪戯に光る。

「な~に考えてたの?」

いつもより低い声で、色気たっぷりに見つめられ、再び顔が一気に熱を持った。

思わず目を逸らした私の首筋に、カレンが口づける。

「ひゃあっ。」

肩を竦めながら、自分でも驚く変な声が出た。

「ぷっ。」

カレンは小さく吹き出すと、肩を揺すって笑い始める。

「かわいいなぁ♡」

カレンは私の背中に手を添えると、軽く抱きしめた。

「僕に、惚れ直してた?」

言いながら、唇を啄むように軽く口づけられる。

(顔が熱い…。)

「…父上に、似てるなって…。」

こちらを愛おしげに見つめるカレンの首筋に顔を埋めながら、私は息を吐いた。

「子煩悩な父親になりそうだな、って…」

「マル、熱い。」

強ばった声が、耳元をくすぐる。

「触るよ。」

声とともに、カレンの手が首筋に添えられた。

「…カレン、手が冷たい…寒いですか?」

私がカレンの首筋に頬を寄せたまま訊ねると、カレンが私を横抱きに抱き直す。

「夏なのに寒いわけないじゃん!マルが熱があるからだよ!!」

私をしっかり抱くと、カレンは早足で城へ向かった。

「ごめん、マル…ごめんな…。」

泣きそうな声で、カレンは何度も繰り返し謝る。

(カレンは何も悪くないですよ。)

私はそう言いたいのだけど、なぜか声が出ない。

カレンの腕に抱かれて安心したのか、その揺れに身を任せるとまるで波に揺られているような心地よさに飲み込まれ、目を閉じてしまった。

「マルっ。」

力が抜けてズシッと重くなった私の体をカレンは抱き直すと、靴音を響かせながら与えられた客間に戻る。

『王女様!いかがなさいました!?』

女性や男性の声が聞こえてきた。

カレンは一瞬足を止めたけれど、軽く深呼吸をして歩きながら答える。

『どうやら慣れない旅の疲れが出てしまったようなんです。申し訳ないけれど、今夜の晩餐は私のみが参加させて頂きたい、と王様へお伝え願えませんか?』

カレンの言葉に男性の短い返事が聞こえ、すぐに足音が遠ざかった。

『鍵をお開けしましょうか。』

続けて女性の声がすると、カレンが小さく頷く。

『右のポケットに入っているので、お願いします。』

鍵を開ける音と共に、扉が開いた。

『すぐに灯りを…。』

『あとは自分でできますので、大丈夫です。ありがとう。鍵はテーブルに置いていてください。』

カレンが断ると、人が部屋から出て行く気配がする。

カレンは暗い室内を横切り、寝室の扉を開けた。

そして私をベッドへ優しくおろしてくれる。

「すぐ、薬を持ってくるからな。」

私の胸元とズボンのボタンを外してゆるめると、足早に部屋を出て行った。

その瞬間、天井に同族の気配を感じる。

(まだ、いたんだ…。)

うんざりした私は、抗議の声を出したいけれど出ない。

その気配は静かに床へ降り立った。

「麻流。」

父上に似た低い艶やかな声だけど、まだ若さのある…でも理巧ほどあどけなくない…この声はやはり。

重い瞼をなんとか持ち上げると、そこには想像通りの青年が立っていた。

(あ…にうえ…。)

呼びかけたいけれど、声が出ない。

そんな私の額にヒヤリとした手が触れた。

「紗那が言うとおり、熱が出たか。」

小さな声で兄上が呟いた時、寝室の扉が開く。

突然現れた見慣れない男に、カレンは一瞬身構えた。

けれどすぐに警戒を解いて、ベッドへ歩み寄りながら小さく訊ねてくる。

「もしかして…カヅキ王子ですか?」

恐る恐る訊ねるカレンに、兄上が嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「お、わかった!?全然バカじゃないじゃん!」

(…兄上…。)

ガックリきた私の横で、カレンがぷっとふきだす。

「リクの言ってたことがわかる…。」

(「ここに楓月兄上が加われば、もう本当に収拾がつかない。」)

理巧の顔と言葉を私とカレンは同時に思い出したようで、思わず笑ってしまった。

でも、私は体が重くて笑い声すら出せない。

カレンは私の頭を撫でると、背中の下に腕を差し入れ、体を起こしてくれた。

「飲める?」
作品名:④残念王子と闇のマル 作家名:しずか