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④残念王子と闇のマル

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「よく頑張ったな。」

カレンは私の頭を撫でながら上向かせると、溢れていた涙をペロッと舐め取った。

そして、そのまま頭を洗ってくれる。

優しい手つきでごしごしと頭を洗われ、あまりの心地よさに私は目を閉じた。

「気持ちいい?」

カレンが優しい声で訊ねてくる。

「はい…。」

うっとりとカレンを見上げて答えると、カレンの頬が一気に赤く染まり、熱を帯びた瞳を私から逸らした。

「…煽らないでよ…。」

言葉と同時に、胸の下でカレンの熱い想いが膨らむのを感じる。

「ごめん…。」

カレンは私からサッと離れると、後ろへ回ってシャワーで髪の毛を洗い流してくれた。

そして私を横抱きにして浴槽へ降ろす。

「こっち、見ないで。」

そう言うと私に背を向けて、自身を洗い始めた。

私は言われた通り、カレンに背を向けた状態で浴槽で足を伸ばす。

「ふぅ。」

ため息を吐いた瞬間、換気口を見上げた私はそこから見下ろすサファイアの瞳と目が合った。

「!!」

ひゅっと息を吸い込んだ私に反応して、カレンがこちらに駆け寄る。

「どうし」

「浴槽に浸かったらダメですよぉ~。」

「雑菌入りますから。きちんとかかり湯をしてきてくださいね。」

(…。)

「あ~、なんか、予想を覆されたわねぇ。」

「ほんと。あの服の脱がせ方と口づけを見る限り、かなりの技術の持ち主だわ。」

「顔も声も性格も良くって技術もあるなんてぇ、デキすぎじゃなぁい?」

「どこかに欠点があるはずよ、きっと。」

「あ、頭が悪いって銀河叔父様が言ってたわぁ。」

「そんなこと言ってたわね、そういえば。」

「でもぉ、そんなに悪そうに見えないわよねぇ。」

「銀河叔父様にかかれば、全ての人が頭悪く見えるんじゃない?」

やいのやいの言い合う双子の声が、だんだん遠ざかる。

呆然とした私達は、その後なんだかお互いに意識してしまい、無言で浴室から出た。

丁寧に体を拭いてもらい、服を着せてもらった私は、カレンに髪を乾かしてもらいながら再び頭を下げる。

「本当に…うちの双子が…ごめんなさい。」

目を伏せて謝ると、カレンは思いがけず笑い始めた。

「いや、面白すぎてクセになりそ♡…おかげで落ち着いたし…。」

「え?」

ドライヤーの音で最後の方が聞こえなかった私は、カレンを見上げて首を傾げた。

するとカレンはにこりと笑っただけで、自分の髪の毛も乾かし始める。

そしてカレンは脱いだ服を手早く畳むとそれを持って再び私を抱き上げ、リビングへ出た。

そこでは既に治療の準備が整っており、先程までとはうってかわって、双子は言葉少なに私を迎える。

父上と理巧は、少し離れたところから治療の様子を眺めていた。

「カレン王子、お姉様を抱いて座ってしっかりと押さえていてください。」

馨瑠の言葉に、カレンは私を膝の上に乗せると、後ろから手をぎゅっと握ってくる。

「局所麻酔です。」

紗那は先程とは全く違う口調で言いながら、手早く針を数ヶ所に刺した。

「麻酔が効くのを待つ間に、抗生剤や炎症止めを飲んでおきましょう。」

馨瑠が口の中に薬をいくつか放り込んできて、水を飲ませてくれる。

「傷が目立たないように縫合しますけど、完全には消えないのでそこは諦めてくださいね。神経がやられていなかっただけありがたいんですから。」

紗那はそう言いながら、見事な手つきで綺麗に縫合していった。

「これは溶ける糸なので、抜糸は特に必要ありません。ただ傷が治ってくるとつっぱる痛みが出ます。あんまり辛いときは呼んでください。あと、これから熱が出るかもしれませんが、薬をしっかり飲めば大丈夫です。」

説明しながらあっという間に両肩の傷を全て縫合した紗那は、手早く薬を塗布して包帯を巻いていく。

「これが内服と外用です。解熱鎮痛の頓服も置いていきますね。それぞれ書いてある通りに使ってください。」

馨瑠が薬袋を3つ、カレンに渡した。

「次はどこ?」

父上がカレンに訊ねる。

カレンは私を抱えたまま立ち上がり、父上の元へ歩いて行くと足元に跪いた。

「当初は虹の国へ行く予定でしたが、マルをしっかり治療したいので、花の都へ伺わせてください。」

カレンの申し出に、父上はジッとカレンを見つめ返す。

「虹の国へはマルが快復次第伺うと、手紙を出す予定です。」

父上はスッと目を細めると、足を高く組み直してカレンから目を逸らした。

「その手紙、届けてやんな。」

「はっ。」

すぐさま、理巧が返事をする。

「理巧を置いていくから。」

父上は言いながら立ち上がると、紗那と馨瑠の襟首を掴んで強引に立ち上がらせる。

「じゃ、また。」

「あ、父上!」

双子を両腕に抱いてバルコニーの手摺に立ち上がった父上を、思わず呼び止めた。

治療の為に双子を連れて戻ってきてくれたことのお礼を言おうとしたら

「なんで麻流がカレンを捕まえられたのか、ってしつこく訊くからさ。」

父上は、突然脈絡のないことを言う。

「え?」

私が首を傾げると、父上は切れ長の黒水晶の瞳を三日月に細めた。

「だから『風呂場覗いてきたら?』って言ったんだけど。」

(!!)

「わかった?」

父上は、両腕の双子に視線を送る。

「う~ん。年上だけど見た目は幼くて可愛いし、すごいしっかりしてて隙がないのに、たまに無防備になる、ってとこが萌えるのかしら?って思いました。」

馨瑠が答えると、父上はカレンを見下ろした。

「どう?」

カレンは意味深な笑顔を浮かべて、その父上の視線を受け止める。

「…きっと、ソラ様と同じです。」

カレンの言葉に、珍しく父上が瞳を大きく見開いた。

(驚いてる!?)

父上はカレンを数秒ジッと見つめた後、その黒水晶の瞳を三日月に細める。

「そ。じゃあ大変だ。」

(何が?)

首を傾げる私に、父上は背中を向けた。

「子だくさんだね、きっと。」

言葉と共に、3人の姿が消える。

『きゃあ~』と双子の悲鳴が遠くから聞こえるけれど、姿を捉えることはできなかった。

「照れたのかな?ソラ様。」

カレンが微笑みながら、私を見る。

「父上が?」

驚く私からバルコニーへ視線を移して、カレンは遠くを見つめた。

「話を逸らしたから。」

(?)

よく意味がわからず私はもう一度、首を捻る。

「ふふっ。結局、僕とソラ様は同じってこと。」

(…。)

なんだかよくわからないけれど、穏やかに私を見つめるカレンが少し大人っぽく見えて、私の心臓が小さな音を立てた。

「そういえば、カレンも来月が誕生日ですね。」

(本当に最近のカレンの成長ぶりは、すごい。これが20歳という節目を迎えるということなのかな。)

私がカレンの肩にそっと手を置くと、カレンが嬉しそうに微笑む。

「ようやくマルと同じ二十代になれる♡」

(…まだまだこういうところは、幼いな。)

変わらない無邪気さに私は嬉しくなり、微笑み返した。

(このまま、変わらないでほしい。)

カレンの屈託のない笑顔に心を癒されながら、逞しいその体に私はそっと身を預けるのだった。
作品名:④残念王子と闇のマル 作家名:しずか