俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第二章・第二話】
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「本当ですか。それならまだ許せます。」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
大きな炎はろうそくのように小さくなり、事態は収束した。
「でも血は繋がっていません。てへっ。」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「やっぱり許せん!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
こうして消えかかった炎は復活し、前よりさらに激しく燃え上がり、大悟は灰となって、コンビニ空調の風にはかなく飛ばされた。
「お兄ちゃん。けっこう素早く再構成できたね。」
バイトを終えた桃羅がコンビニの外で大悟に話しかけている。
「冗談はやめろ。本当に死にかけたんだぞ。地獄に舞い戻ってしまうところだったんだぞ。桃羅。楡浬の姿が見えないが、ここにいないのか。」
「愛人二号饅頭はシフト入ってないので、家にいるよ。それとお兄ちゃん。さっきからすごく気になってることがあるんだけど。ダルマが一緒に帰ってきたのはまだいいとして、もう一個UMAが存在するのはどうして。」
「お前もそう呼ぶのか!妾は白弦というれっきとした美少女じゃ。幼女スキルはレベル高いぞ。」
「UMAがしゃべった!名前はつるぺた?そのおっぱいによく似合ってる。」
「こら、そちまでまったく同じことを言いおる。まさか、こやつは宇佐鬼大悟の。」
「ああ、実の妹だ。顔、性格、全然似てないだろ。」
「性格のひねたとこなど、そっくりじゃ。 血は争えんのう。こんな遺伝子兄を妾が受け入れたとは嘆かわしいのう。」
桃羅は眉毛を逆ヘの字に湾曲させた。
「つ、つるぺたさん。聞き捨てならない、いやガン聞きしたいフレーズを発したよね?」
「ガン聞きとはなんじゃ。妾はなんら疚しいことはしとらんぞ。そちの兄貴が妾を抱いただけじゃ。」
「お兄ちゃん~。」
《宇佐鬼大悟~。》
桃羅と騙流がひきつらせた笑顔を大悟に大接近させる。
「ちょっと待て。騙流はオレと一緒にいたんだから、無実を証明する立場だろ。つるぺたを抱いたとか、そんなヤバいこと、オレがするわけないだろう。抱いた・・・そういや、抱いたな。」
「お兄ちゃんが赤裸々な事実を軽く認めた!」
《宇佐鬼大悟、破廉恥極めた。だんまり制御不能!》
「ほれ、宇佐鬼大悟本人にも思い当たるフシがあるんじゃ。あの時のことを思い出すにつれ、妾、恥ずかしくて顔から火が出そうじゃ。ぽっ。」
すっかり赤土化したほっぺたを撫でる白弦。
「桃羅、騙流。今からオレはつるぺたを抱くぞ。」
「宇佐鬼大悟!いくらなんでもこんな一目につくところでは止めてくれ。」
「いや止められない。オレの体内の抱きマグマはもう暴発寸前だ!」
「抱き枕が抱きマグマに大昇華してるよ。お、お兄ちゃんが色魔大魔王になっちゃった!もうモモの夢と理想はティッシュの羽根を付けて飛んでいったよ。ううう。」
「泣きながら言うにはずいぶん貧相な飛行形態だな。つるぺた。じゃあ逝くぞ。」
「逝くじゃと?妾も巻き添えにするとは、鬼ッ死ンジャーじゃ!」
「新たな二つ名が誕生日を迎えたな。よし、つるぺた。今までで最高の抱きをしてやるぞ。気持ちよさで天に昇れ!」
「あれえ~!!!」
「お兄ちゃん!!!」
《宇佐鬼大悟!!!》
大悟は腕に白弦の背中をちょこんと乗せた。
「ほら、お姫様抱っこ、シングルだ。これまでは、騙流とダブルだったから、この方が背中に優しくて気持ちいいだろう。」
「そうじゃな。抱かれ心地がすごくよい。二本の腕の当たり具合が背中をマッサージするようで快適じゃ。」
「そ、そういうこと。つまり、ダルマ一号、二号ってわけだね。ふーっ。ひと安心。いや、お姫様抱っこ自体、モモは認めてないんだから。すると、ダルマ二号もうちに来るんじゃ?」
「当然そういうことになる。妾のおかげで、防腐剤が手に入ったんじゃからな。」
「まあいいだろう。桃羅、許してやれ。すでに三人いるからあとひとり増えてもあまり変わらないだろう。特にこのチンチクリンなサイズだ。不要になれば不燃物ゴミの日に、ゴミに混ぜて捨てればいい。」
「妾は萌えるゴミじゃ!いやそうではない。危うくゴミ属性を認めるところじゃった。妾も行くぞ。人間界にも興味があるのでな。」
「そういえば、衣好花もシフトじゃないのか。ここにはいないようだが。」
「お兄ちゃん。ショボショボ魔女はちょっとたいへんになっちゃったんだよ。」
「どうしたんだ。風邪でもひいたのか。」
「ただの風邪ならいいんだけど。心の風邪をひいたみたいなんだよ。地獄行きバトルにダルマ一号に負けちゃってから、すっかり、寒空に舞い散る落ち葉のように心が折れてるんだよ。」
「楡浬と衣好花、どちらも心配だな。」
大悟と桃羅たち三人は、沈みゆく冬の夕日のように、家路を急いだ。
すぐに大悟家に着くと、玄関には楡浬が腰に手を当てて、屈強な門番をしていた。本来名前が書かれている胸のゼッケンには『BL激ラブ!』と書かれている。
「よく心臓が動いたままで帰って来れたわね。てっきり、長方形の木の箱に入って微動だにしない理科実験標本人形での帰宅を予想してたけど。」
「薄いジャージ姿で、急に盛り上がった胸部を強調するポリシーは立派だな。」
「ほっといてよ。どんな風に死んでるのか、シミュレーションが多すぎて、アタマがメモリー不足に陥ってたんだからねっ。」
「それは悪かったな。今度は脳停止のフローチャートをプリントにして置いておこう。」
「あんたって、ホント、バカね。グスグスン。」
楡浬は大悟の広い胸にぬれた頬を押し付けた。大悟は楡浬の体温で、人間界に無事に戻ってきたことを実感するのであった。
リビングで楡浬に防腐剤効能の限界を話した大悟。
「仕方ないわ。そもそも饅頭人に食べられたアタシが悪いんだから自業自得よ。原因と結果がわかってるだけ、突然死よりマシだわ。1ヶ月も新しい空気が吸えることを感謝するわ。じゃあ、アタシは部屋で大好きなBLアニメ見て、BLの夢プールで溺れてくるわね。おやすみ。」
冷静さを装う楡浬の背中が、数十秒後には曲がって両手が顔を覆ってしまうというわかりやすい未来に、心を焼かれる大悟であった。
「バンザイ!これで愛人二号は1カ月で腐ってしまうよ。食費がかさんでたいへんだったから、ひとり食い扶持が減れば家計が助かるよ。資源浪費がなくなって、環境問題も解決するよ。さすがにモモが間引きするのは心が痛むから、自滅してくれて助かるよ。ははは。」
「桃羅。ありがとう。」
「お兄ちゃん。ここはお礼を言う場面じゃないよ。ツッコミするところじゃ?」
「わざとピエロを演じて雰囲気を盛り上げようとしてるんだな。感謝するよ。」
「えっ。そ、そうだったかな。あっ。鍋を火にかけたままだった。吹きこぼれちゃうよ。」
桃羅はそそくさとキッチンへ向かった。足音が少々乱れていた。
「そういえば、敗戦ショックにまみれた衣好花が心配だな。ちょっと様子を見てくるか。」
振り返った桃羅が大悟に目を合わせずに声を出した。
「お兄ちゃん。それは止めた方がいいと思うけど。夜の真っ黒な海で泳ぐような不安でいっぱいのイヤな予感がするよ。」
作品名:俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第二章・第二話】 作家名:木mori