俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第二章・第二話】
「今度は降りるだけじゃから、浮力がついて重さは感じなくなるはずじゃ。それ!」
白弦の掛け声と共に三位一体セットがダイブ。
「おおお、これじゃ、これじゃ。妾が夢見していた下界への降り方。」
「さっき言ってたオトメがどうこうというのはこれか?高所恐怖症で、ひとりで飛び降りることができなかったとか?」
「違うぞ。ジャンプの飛形点の問題じゃ。」
「はあ?よくわからないぞ。」
「どこまでも鈍いヤツじゃのう。降りる時に、ひとりだと、制服のスカート部分がひらりとしてしまうじゃろ。」
「ああ、そういうことか。ひらりなんて生易しいものじゃなく、全開で、おっぱいまで露出してしまいそうだけど。ははは。」
「何を言うか、このヘンタイ色魔が!」
「でもこの落下速度では誰にも視認できないんじゃないか。」
「パパラッチはどこにいるのかわからん。妾のようなスーパー美幼女は常に戒厳令下にあるのじゃ。」
「自意識過剰な幼女だな。」
「なんか言ったか。」
「いやただの独り言だ。孤独になりたい症候群がたまにオレを招き猫するんだ。」
「つくづくヘンタイなヤツじゃ。」
「そろそろ地面に落ちるぞ。」
「わかっておるわ。ソフトランディングするのはカンタンなのじゃ。」
『ドーン』という破裂音。着地点の大地が割れた。
「すごい衝撃だったが、みんなケガしてないか?」
「妾と幼女2号機はお姫様抱っこのおかげで大丈夫じゃ。むしろ、宇佐鬼大悟の方が小ピンチになってないか。足元をちょびっと見た方がいいぞ。」
大悟は自分の視野に違和感を覚えていた。
「あれ。白弦の目線が自分の正面にあるな。オレはいま地面に座っているのか。」
大悟は視線を足に下げた。地面から足が生えていた。
「ぐわああああ!オレの足がなくなってる!超絶大ピンチじゃないか!失血死するぞ。」
「たいへんじゃ。早く手当てをしないと死んでしまうぞ。」
《あわわわわ。泡、泡、泡。永遠のだんまり。》
あまりのスプラッター惨劇に騙流は失神。
「こんなところに病院はないし、宇佐鬼大悟はこれまでじゃな。いい人生だったか?」
「そ、そんなあ!まだまだオレの春は青いままだ。いや青にもならない白い冬だ。悔いが残りまくり、かまくらができるぜ。バタン。」
大悟は足だけでなく全身が大地となった。文字通り、土に帰って人生の終焉を迎えた。その場所が地獄というのはいかにも皮肉である。
「ううう。オレは死んだんだな。今思考しているのは銀色の魂か。」
「何戯言を申しておる。」
「つるぺた!?あんたも一緒に死んだのか。」
「貴様と心中などするものか。妾はピンピンじゃ。そちもな。」
「あらら。宇佐鬼大悟さん。寝起きでビンビンでいらっしゃいますのね。下半身の青春は謳歌中ですこと。」
「一条生徒会長!?オレはピンピンなんだけど。芸人みたいだな。って、両足あるし、オレ生きてるじゃん!」
「ようやく気づいたか。自己認識能力の乏しいヤツじゃ。」
「でもオレの両足はどうして元に戻ったんだ?」
「そんなの、初めからどうにもなっておらん。」
「でもあんな高いところから落ちてしまったじゃないか。ゆっくり降りてくれと頼んだのに。」
「このたわけが。妾がそのようなミスをするか。第一、そちの足が無くなるほどの衝撃なら妾たちもタダじゃ済むまいて。」
「そりゃそうだが。じゃあどうしてオレは無事・・・まさか、幻術か?」
「まあ、そんなところじゃ。」
「そう言えばオレの願いは聞いてくれるんだよな。」
「そんなことはお前に聞かなくてもわかっておるわ。」
「そこのスケベ生徒会長を見ればわかるじゃろ。」
「こ、これですわ。地獄にはない、血湧き肉裸踊りするような興奮本は!これで犯頭(おかず)には事欠かなくなりますわ。」
「お嬢様。漢字に変えてもエロキープ力大です。それに字面もかなりヤバいです。」
当然にして、メイドの穂芙良もスタンバっていた。
「宇佐鬼大悟さんの願いの品、防腐剤はこれです。お持ち帰りください。メイドの土産です。一度これを言ってみたかったのです。プププッ。」
無表情で言葉だけが笑うという特殊技能を発揮する穂芙良であった。
大悟が手にしたのは錠剤の入っている瓶。
「これ1粒でどれぐらい効果があるんだ。」
「1日分です。全部で30個ありますから1カ月分ということになります。それ以上は服用できません。容量オーバーとなり効き目が無くなります。」
「じゃあ、1カ月経ったら楡浬はどうなるんだ。」
「饅頭人の人生がゲームオーバーとなります。所詮野獣ですから。饅頭人は居住区から出られる自由を得られますが、逆に死滅する道を選択することとなります。危険ドラッグに指定されているのは、饅頭人が居住区から出てウサミミにとって危険であるという面とその饅頭人が1カ月で命を落とすという自分にとっての危険という意味が込められているのです。」
「そ、そんな。じゃあ、この防腐剤は楡浬を1カ月だけ延命する薬に過ぎないということになるのか。」
「おっしゃる通りです。残り1カ月について、悔いのない充実した青春の花を咲かせて枯らすことをお勧めいたします。」
「あんた、さらりと冷たいことを言うんだな。悪い友達でもいるんじゃないか。」
「友達はおりませんが、そこにおられる方に日々鍛えられております。鉄の精神とは、冷たい鉄を持っているということですよ。」
「鉄は熱伝導体だ。オレはきっと熱くしてみせるぞ。」
大悟はそう言いながらも無策である現状にひどく心を痛めていた。
「よし。それじゃあ、人間界に帰るぞ。」
「いえそんな必要はありませんわ。もうここは人間界ですわよ。」
「えっ。じゃあ、さっき意識を失っていたうちに戻っていたということなのか。ここは地獄の生徒会室じゃないのか。」
「そうですわ。地獄の生徒会室はすごく広いんですの。人間界にも繋がっておりますわ。そこのドアを開けてごらんなさい。」
大悟は華莉奈に言われる通りにして、目に映ったもの。
「オリジナルサービス引換えボックスお買い上げありがとうございます。チラッ。」
長蛇の列を営業スマイルで迎えている軍艦型帽子の女子店員。
「あれは桃羅。ここはコンビニ、パンチラボか。」
「お兄ちゃん!お帰り。死ななくてよかった。抱きっ。」
「おいおい、よせよ。人が見てるだろう。って、お客さんが大変だぞ。」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ゴゴゴ~。俺たちは大金はたいて見えないパンチラササービス受けてるだけなのに。いきなりハグだと。しかもあの巨乳だぞ。なんて羨ましくて、恨めしい~!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「あちちちち。熱いなんてものじゃないぞ。この情念の情熱はっ。いやこれは怨念の業火だな。」
大悟は行列の男子全員の殺意を一身に集めて、からだが焦げそうになっていた。
「お兄ちゃん。助けてほしかったら、モモのパンチラ見てね。」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう。これじゃ焼身自殺した方が涼しいだろう。」
「仕方ないお兄ちゃんだね。みなさん。ここにいるのはあたしのお兄ちゃんですから、大丈夫ですよ。ただの兄妹スキンシップですから。」
作品名:俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第二章・第二話】 作家名:木mori