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俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第二章・第二話】

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「そうかもしれないが、せめて顔ぐらい見ないとな。いくら引きこもりでもその程度は許してもらえるだろう。」
「そうかなあ。お兄ちゃんがそう言うならいいけど。衣好花は部屋にいるからね。モモは食事の用意をしてくるからね。」
 大悟は2階のいちばん奥の部屋に足を向けた。普段より床を強く踏んでいた。自分が近づいていることを衣好花に伝えるためである。
「コン・・コン・・コン。」
 ノックをゆっくりとした大悟は、少し強く歯を噛みしめた。
「・・・・・・・・。」
 部屋から帰ってくる言葉はなかった。
「衣好花。いるんだろ。しばらく顔を見てなかったから、挨拶ぐらいさせてくれよ。入るぞ。」
 夜なのに部屋のあかりは点けておらず、一瞬は真っ暗で何も見えなかった。しかし、人間がいるという気配はあった。
「・・・・・・・・。」
 暗順応するに従って、大悟の眼に投影される魔法使いの帽子とマント。
「衣好花。元気か。って言うのはちょっと野暮か。小元気か。これじゃあ、母さんと同じトークになっちゃうな。」
「・・・ま・・・。」
「何か言ったか?」
「・・負け・・・」
「負け?」
「・負けた。・。」
「ああ、そうだよな。それで地獄には行けなかったんだな。」
「負けた、ショタ。」
「ショタ?」
「負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。」
「負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ。負けた、ショタ~!」
「いったいなんなんだ。このドス黒い迫力は。暗い井戸の底に突き落とされて蓋をされて閉じ込められたような気分だ。ぐああああああ~。」
 悲鳴を上げた大悟は膝から崩れ落ちた。

 数分後。
「お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。」
 リビングのソファーに横たわっている大悟。
「も、桃羅か。なんだか寒いな。オレはいったいどうしてたんだ。」
「二階でお兄ちゃんの叫び声が聞こえたんで、見に行ったらお兄ちゃんが倒れてたんだよ。ここまで下ろすのに重たかったから、着ていた服は脱がせたよ。じゅる。」
「寒いのはそのせいか!パンツだけじゃないか。」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。犯してはいないから。それは結婚するまで保存用箱に入れているからね。ちょっと見たいところは見たけど。うふっ。」
「こら~!オレの大事なところを。服を持って来いよ。」
「二階に置いてあるけど、それは冷たくなってるよ。服に付着していた体温はすべてモモが吸収したからね。」
「このドヘンタイ妹が!」
 桃羅は大悟の部屋に服を取りに行って戻ってきた。そして大悟にそれを渡す。
 文句言いながら服を着る大悟だが、なんだかしっくり来ない様子。
「本当にこれはオレの服なのきゃ。やけに大きいじょ。」
 だぶだぶのセーターにズボン。サイズが合っていないのは明らかである。
「お、お、お兄ちゃん。それ、そのからだ、いったいどうしたんだよ。まるで子供みたいだよ。声としゃべり方もおかしいよ。ていうか、すごく高い声だよ、逆変声期が来たんだよ。か、か、かわいい。抱きッ!」
 桃羅は横綱が小兵力士を引きつけするように強烈にハグ。
「く、苦しい。止めてくりぇ。桃羅~。し、死んでしまうじょ~。」
「もう、これはお兄ちゃんじゃないよ。世間、風俗にまみれていない純真純朴な弟ちゃんだよ~。」
「オレがまみれているのは世間だけだじょ。」
『ダダダダダダダ!』
 すごい勢いで階段からダンジョンの大きな岩が転げるように物体が落ちてきた。
「アタイのショボ魔法で生まれた!これぞ、ショタイゴちゃん!遂成の字。欲吸の字。末抱の字!」
 さっきまで無人の暗黒大陸にひとり取り残された状態の衣好花が復活していた。衣好花は桃羅から大悟を取り上げて、自分の胸に抱いて、頬ずりを繰り返している。
「止めろ!苦しい。摩擦熱でやけどしそうだじょ。」
「アタイのハートにショタイゴちゃんが火を点けた。萌燃の字。」
「これって魔法?お兄ちゃんを小さくしちゃったのはショボ魔法使い?このままでもかわいいからいいけど。」
「よくない。早く元に戻しぇ。このままじゃ、青春を謳歌する前に、もう一度第二次性徴を繰り返さないといけないじょ。」
「それはいいねえ。今度はモモが手取り、足取り、足取り、足取り教えてあげるよ。超楽しみ!」
《その楽しみ、まる、先食いする。だんまり。》
「いったいなによ、騒がしいじゃないの。アタシにアイドルのスカウトでもきたのかしら。今はBLマンガ読破で忙しいんだけど。」
楡浬もリビングにやってきて、そこにいた少年が目に入った。それまでの青汁罰ゲーム食らったような顔が恵比寿様のように緩んでしまった。
「キャイ!こ、これって、商店街の一等賞よね。誰が当てて来たの?アタシにくれるわよね?」
楡浬審査員にもE難度クリアの高評価を得た大悟。
「オレは賞品じゃない。高校生の宇佐鬼大悟だ!」
「大悟ですって!?どうしちゃったのよ。何か悪いものでも食べて、からだが干物弟になったっていうこと?UMAだわ。」
「ついにオレもUMA呼ばわりされるとは。」
「他人を侮蔑すると自分に跳ね返ってくる。因果応報じゃ。」
クラス全員のテスト採点を終えてひと仕事済んだと満足げになった中年教師のように、ゆっくりと歩いてやってきた白弦。
「あんたの魔法でオレを元に戻せないのきゃ?高齢者社会の申し子つるぺた。」
「その呼び方はやめい。余計なトッピングまでしおって。その魔法の解除は無理じゃ。そちをショタ化させた魔法は、邪念の塊が魔力と混合してなされたものじゃ。期間限定の特別メニューじゃ。かけた本人も二度と同じ魔法はできないじゃろう。普通の魔法を解除するのとワケが違う。」
「そ、そんなあ。じゃあ、これからのオレの人生はいったいどうなりゅ?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん、じゃない、弟ちゃん。モモはすでに社会人なんだから、弟ちゃんを養うことぐらいできるよ。シングルシスターとして、弟ちゃんを子供扱いしてやるよ。」
「子供扱いって、そういう意味では使わないだろう。」
「あ~。学校、どうしよう。」
「それは大丈夫。モモに任せなさい。泥船を沈められる気持ちでいてね。」
「いれるか!溺死、必至、ど真ん中だりょ。」
「そちはまだマシじゃ。大悟がこうなったことで、もっと大きな借金取りがやってくるんじゃからな。」
白弦の呟きは、嘆く大悟の声と雰囲気にかき消された。