俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第二章・第二話】
「そうカンタンに萌えてたまるか!たしかに、か、かわいいけど。」
《ズキュン。ズキュン。だんまり。》
「だ、騙流。か、勘違いするなよ。オレはただのリボンフェチなんだからな。」
《そういうシュミ、あったとは初めて聞いた。メモする。だんまり。》
「テークノートは止めろ。桃羅に怒られる!」
叫び声が裏返りそうになる大悟を尻目に、白弦は言葉を続ける。
「第三の幼女スキルはこれじゃ!」
白弦が指でつまんだもの。名札であった。安全ピンで制服に留めてある。
「この名札、よく見るがよい。」
そこには『ちゅる』と書かれていた。
「あんた、名字が『はく』だったのか。」
「今頃気づくとは、浅はかな男よ。この下の名前が重要じゃ。ひらがなで、しかも幼女用語。これがロリコンの心臓の鼓動を超高めるんじゃ。」
「名札に下の名前。華莉奈なら『下の名前?おまんじゅうですの?』とか言いそう。ごほん、なんでもない。」
「あやつの制服にも名札がある。それも、みゃる、と書いてある。騙流から『だ』を抜くだけでも、だし抜いているんじゃが。」
「ちょっとサムくなりそうだけど。」
「ゴホゴホ。そういうわけで、みゃるという幼女用語でまとめているのは合格じゃ。」
「あんな名札付けてたか?たしか、『まる』と書いてあったような?」
「こういう事態、想定してさっき付けた。」
「意外にちゃっかりしてるな。」
《初めて、宇佐鬼大悟に誉められた。てれり。だんまり。》
顔がダルマと同じ色になった騙流。
「こら、宇佐鬼大悟。不公平じゃ。妾も誉めんか!」
「そういう流れじゃないだろう。白弦、いや、つるぺた。」
「なんだと!この世界の熱湯雲のように豊かな胸を愚弄するか。」
「いや、そんなつもりでは。つると来ると、ぺた。というのが、スムーズな活用形で。」
「そのような活用形はない!もうこうなったら幼女スキル向上勝負じゃ。」
「ずいぶん、訓練的で、効果のあるっぽい勝負だな。ならばやってくれ。こちらが勝ったら願いを聞いてくれ。」
「いいじゃろう。でも妾が勝ったら?」
「勝った時に考えてくれ。」
「ずいぶんな報酬じゃの。」
こうして騙流と白弦の勝負が始まった。
まずは背比べ。
『妾の方が圧倒的じゃろ。』と豪語していた白弦は、さかんに背伸びをしたものの、あっさり敗北。どこから見ても白弦の方が一回り小さい。幼女スキルという観点からは小さい方が勝利を掴むという気がしないではないが、小さい者は大きさを志向するというのは人間界に同じ。
「次はこれじゃ!」
白弦はメジャーを取り出した。自信ありげに自分の胸に当てている。
不安を煽るように大悟の額から冷や汗が滴り落ちる。
「まさか、おっぱいのサイズを勝負ネタにするのか?無謀過ぎる!偏差値40から東大は狙えないぞ。」
「《失礼な!これほどに豊穣なバストは人間界、地獄のどこにも存在しない。」》
同時にクレームする白弦と騙流。幼女のアニメ声とダルマ会話が見事なハーモニーを奏でる。
「よし始めるぞ。測るのは宇佐鬼大悟の役割じゃ。」
「え?そんな、これはセクハラになるだろう。それも半端じゃないぞ。測るってったら、さ、触ってしまうだろ。」
「の、の、望むところじゃ。オトメの純情。欲しけりゃくれてやるわ。」
《だ、だ、だ、だんまり。》
「そんなたいそうなモノには見えないが。てか、そもそも胸の存在にもUMA的疑問があるけど。」
「ここで再びUMA登場か!いいかげんにするのじゃ。さあさあ、図れ。」
全力で胸を突き出す白弦。突き出しきれなかったのは言うまでもない。大悟はふたりの虚胸を計測した。
「世の中には、測り知れないモノがあるものだ。両者、相譲らず、いや譲りまくって、引き分け、水入りだ。」
大悟はこう述懐し、ふたりから袋にされていた。
「さあ、次で決めるぞ。これは2勝分の価値があるバトルじゃ。お姫様抱っこ、抱き心地選手権じゃ。宇佐鬼大悟が抱いて、その感触で判断するんじゃ。これは宇佐鬼大悟との、しっぽり関係に非常に重要なイベントじゃ。」
「しっぽり関係ってなんだよ。」
「みなまで言わすな。照れるじゃろう。」
《てれり。だんまり。》
騙流は下を向いている。ダルマを見ると、こちらも全員顔を下にしている。からだの赤さがいつもより濃くなっている。
「仕方ないなあ。騙流はさっきまでやってだろうに。」
《いつもと違う。これから行われる抱っこには愛、込められる。だんまり。》
「言ってることがわからないぞ。じゃあやるぞ。」
大悟がそう言った瞬間、いつもよりも腕が苦しいと感じた大悟。
「おいおい。ふたり同時なんて聞いてないぞ。」
「こうしないと比較できんじゃろ。ほれ。妾のお尻の感触を堪能して果てるんじゃないぞ。」
「こんなお子ちゃま遊びで果てるかっ!しかし、腕がキツい。騙流より小さいはずなのにどうしてこんなに重量があるんだ?それにやけにゴツゴツしているぞ。」
大悟は小さなふたりの重さに耐えかねて、落としてしまった。
「いたたた。」
《痛い。だんまりできない。》
「あの固い触り心地はなんだ?」
大悟は落ちた白弦を起こすため、背中に手を当てた。妙な違和感があったので、少し擦ってみた。
「これって、まるで亀の甲羅じゃないか。」
「見たな~!」
「見てないけど、手の感触でわかるぞ。カメ導師って二つ名はこれか!」
「バレたら仕方ない。そう。妾は亀の化身じゃ。正体がバレたなら、もうそちたちに下界に連れて行ってもらうしかないぞ。」
「ずいぶんとまた脈絡のないことだな。勝敗を決めようにも感触は不明だったぞ。」
「別に勝敗なぞ、どうでもよいのじゃ。妾は下界に降りたいだけじゃし。」
「わかった。オレの背中について来い。」
「いや、どちらかと言えば、お姫様抱っこは、お腹にくっつくぞ。」
「例え話だ!」
こうして三人は下界へ下ることとなった。
「どうやって降りるんだ?」
「カンタンじゃ。こうするのよ。」
白弦は手に持っていた亀の人形をふると、猛烈な風が吹いた。
「妾は亀使いじゃが、風使い。」
「それは幼女ギャグのつもりか!そんな魔法があるなら、いつでもすぐに下界へ降りることができただろうに。」
「それはそうなんじゃが、それができないのが、オトメ心なのじゃ。」
「オトメ心?よくわからないなあ。」
「下界へ降りたら、そちにもわかるじゃろ。オトメな妾をよく観察しておけ。」
「さっきからオトメを連発してるけど、つるぺたはずっと昔からここにいるんだろう。見た目は幼女だけど、いったい何歳なんだ。」
「つるぺた言うな!それにオトメに年齢はないんじゃ。聞くのも大罪じゃぞ。直球ばかりじゃ、そのうち、人生の荒波に打たれるぞい。」
「ごたくはいいからすぐに降りるぞ。」
「願い事をわすれていないか。」
「大丈夫じゃ。下界に降りたら聞いてやるわ。忘れはせんわい。」
「そうか。まだ痴呆症は始まってないんだな。」
「超当たり前じゃ!妾はまだオトメなんじゃから。それではスタンバイじゃ。どっこいしょっと。」
「どっこいしょ、という言葉に重たい年齢の響きがあるなあ。」
「ほっとくのじゃ!早くせい。」
白弦と騙流が大悟にお姫様抱っこされた。無論、人形はもれなく付いている。
「また二人分+甲羅かあ。重たいぞ。」
作品名:俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第二章・第二話】 作家名:木mori