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俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第二章・第二話】

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「どうせ空に行くのは無理でしょうから、いつでも死ねるように、首吊り用のロープをお渡ししますわ。なんなら自分を縛ってもよろしくてよ。ホーホホホッ。」
「そのロープでお嬢様の首を締めたくなりました。」

再び生徒会室の外に出た大悟と騙流。
「外は暑いなあ。さてどうやって空に落ちるかな。それにあの高温。うまく入っても熱さに耐えられないよな。」
 外では風が吹いている。空の海は上昇気流が支えているようである。
 ジャンプしても届かない。お湯を利用する。間欠泉。など思考を巡らす大悟だが、眉毛は八の字のままである。
 騙流は手持ち無沙汰で、桃羅から受け取った四角のメモを眺めていた。そこには『不純兄交遊禁止!』と書かれていた。それを目の前でひらひらさせた。
「それだ!」
 大悟は一言叫んだあと、ひとしきり空を見渡して、指で風の流れを確認してから騙流に視線を向けて、何事かを告げた。騙流は頷いて、ダルマを地面に並べている。
 大悟は自分の服を脱いで、それを引き裂いては拡げていく。ズボンも使って、ついにパンツ一枚となってしまった。代わりに大地に一畳大の繊維が横たわる。それはほぼ長方形であった。
 騙流はその四隅にダルマを配置した。さらにその四角の布を取り囲むようにダルマを10センチ間隔で配置していった。
「よし。次はダルマとダルマの短い距離を埋めるものだ。それは土の中にある。ダルマに魔力をかけてくれ。」
 騙流はダルマを会話に使えないため、首を少し上下に動かして、同意するとの意思を示した。
 土は蛇のように盛り上がって、ダルマ同士を繋いだ。
 四角の布は、各辺をダルマと土で長方形に囲まれた。
「これがこんなことで役立つとは思わなかったな。用途はあのエロ語連発生徒会長の意図とは違う形になってしまったがな。」
 大悟は四隅にそれぞれロープを結んで、1メートルぐらいの地点で一本に纏めて、それを大きな木に結び付けた。
「仕上げだ。残ったダルマを下の部分で連結してくれ。」
 騙流はダルマを紐のように長くして、四角繊維の下に二本ぶら下げた。
「これを立てるぞ。騙流、見てくれ。即席の凧の完成だ。ダルマとダルマの間にあるのは土の中にある鉄分だ。これを騙流の磁力魔法で繋いでいるんだ。」
 騙流は信号機のように目を白黒させている。
「さあ。凧に乗るぞ。今回だけはお姫様抱っこではなく、おんぶズマンだからな。両手で凧を掴む必要があるからな。」
 大悟は騙流をおんぶしたまま、凧に背を向けて、上部の角にあるダルマを握った。
 凧は強い風に煽られて、どんどん上昇していく。
「うまい具合に風に乗れたな。ここまでは思った通りだな。空に海があるということは相当強い上昇気流があるということになる。このまま、うまく温度の低い海に着けばいいけど。」
そううまくいかないのが世の中と人生。大悟の予想よりも強い風が吹いてきた。
「うあああ~!」
大悟の叫び声とともに騙流凧は目標としていた雲の部位とはまったく異なる真っ赤な色の地点に飛ばされていった。
「あちちち。熱い!」
非常に温度の高そうな雲に入ってしまい、熱湯のような蒸気に包まれて、大悟と騙流は意識を失ってしまった。

「ううう。あれ。オレはいったいどうしたんだっけ。そう言えば、強風に飛ばされて、熱い蒸気に包まれたような。だ、騙流は?」
 シャツとズボンが復活していた大悟は周囲を見渡す。
《ここにいる。ずっと、だんまり。》
純白の空間の中で、騙流はすでに起きていた。そして一方的に何かを見ていた。その視線の先。
「やっとお目覚めかの。ようこそ、カメの国へ。久しぶりの来客じゃ。しかも男とな。付属品がついておるのが少々邪魔じゃが。」
大悟の黒い瞳に映ったモノ。
「騙流よりちっちゃい。この小動物はいったい。顔だけしかない。髪の毛やからだがいっさいない。UMAか?新発見だ!これを売れば宇佐鬼家の家計も安泰だ!」
「UMAじゃと?どこにいる?」
「UMAがしゃべった!さらに商品価値が上がったぞ!ちょっと待て。今の話、もしかして妾のことか?」
「質問をしてきたぞ。知能ある物体だ。これは世紀の大発見、ノーベル賞モノだ!」
「こら。妾の話を聞いておるか。」
「はあ?この生き物をよく見てみよう。」
大悟は殊更に光彩を拡大して、目の前の物体を観察した。頭部、胴体、手足がちゃんと存在している。この部屋自体が真っ白で、白い髪の毛と白い衣服が保護色となって見えなくなっていたのである。
見た目は幼児スタイル、つまり幼稚園児の着るような白いエプロン型制服を身につけている。制服には胸からお腹にかけて、カメのイラストがあり、うさぎを噛んでいる様子が描かれている。UMAはふっくらのツインテを肩に乗せている。もみじのような手にはウルウル目をした亀の人形。ただ、手の甲には何か硬そうなものが付着している。
「ああ、わかった。ここは地獄の幼稚園なんだな。オレは宇佐鬼大悟。お嬢ちゃん、お名前は、亀井亀之進(しん)かな?」
「違うわ!なんじゃ、そのタイムスリップした時代錯誤武士のごときネーミングセンスは!妾は、白弦(はくつる)じゃ!」
「ま、まさか。華莉奈の言っていたエロジジイって、あんた?」
「どこかエロジジイじゃ。妾は高貴で貞淑なレディであるぞ。」
「たしかに見るからに幼女っぽいな。」
「幼女言うな!幼児と幼女では、イメージが違うぞ。後者にはなんとなく猥褻を想起させるようなニュアンスがあるんじゃ。魔法使いと魔法少女では、後者にオタクの匂いがあるのと同じじゃ。」
「そのマニアックな解釈は置いといて。白弦さん。お願いがあるんだけど。」
「願いを聞く前に、処分しなければならない相手がいる。妾の前に立ちはだかる巨大な壁を壊さなければいけないのじゃ。」
白弦を騙流がガン見していた、それも至近距離で。
「壁がデカ過ぎて、前が見えないぞ。」
「騙流と白弦。仲良くお互いの似顔絵を描こうとしてるんだな。」
「違うわ!」
《違う!だんまり。》
「こやつ、妾を挑発しておる。幼女スキルが高いぞ。」
「なんだ、そのミドリムシのような弱小スキルは?」
「ミドリムシをなめるでない。一粒で、莫大な栄養分があるのじゃ。って、会話をコースアウトさせるでない。この騙流とやら、幼女スキル三大要素をフル装備しておるぞ。」
「その装備グッズはいったい?」
「グッズというと急に格が下がるような気がするぞ。まあよい。幼女スキル、まずは人形。幼女向けのファンシーなものじゃ。」
「騙流はそんなの持ってたっけ。って、小ダルマで大ダルマを作ってるぞ。それもタヌキの着ぐるみ付き。目が少女マンガしてる!」
《着ぐるみ、凧の生地を使った。だんまり。》
「オレの制服リサイクルか!役に立って良かった。地獄環境に貢献したぞ。」
《まる。もったいないことしない。だんまり。》
「よい心がけじゃ。ますます侮れぬのう。幼女スキルの二番目。デカリボンじゃ。アタマと腰の赤いリボン。幼女のかわいさを演出するものじゃ。萌えるじゃろ?わしのも、見てみろ。ほれ。」
白弦も2つの白いリボンを触って首を傾けた。騙流も同じポーズを取った。無表情ながら、頬の筋肉が和らいだように見えた。