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俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第二章・第二話】

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《そう。看板の下に書いてあるサブタイトル『夢見るパンチラボ』、これ、このコンビニのコンセプト。奥のレジの子、見る。だんまり。》
 大悟は長蛇の列が伸びている店の奥から二番目のレジを見た。客はこのレジに集中しているようである。
「お買い上げありがとうございまぁす。じゃあ、出血大サービスしちゃうからね。いや~ん。チラッ!」
コンビニ店内の嵐のような風と地響きが起こった。
「NO1店員『桃李の鬼子母神』のクリティカルだあ!」
「「「「「「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおお~!」」」」」」」」」」」」」」」」
 奥から二番目の店員は、引換えボックスを販売する度に、短いスカートの裾をつまんで、パンツが見えるか見えないか、ギリギリのところまで引き上げている。表情はマニュアル通りの営業スマイルである。本当の気持ちが込められてるかどうかはわからない。サービス業に従事する者の笑顔は、心がなくとも訓練でいかようにでもなるので、騙されてはいけない。
「あの女の子、どこかで見たことがあるぞ。・・・って、桃羅じゃないか!さっきまでバトルしてたのに、もうここに来たのか。てか、オレたちがお姫様抱っこでここに来たから遅くなってしまったってことか。しかし、戦って疲労しているからだでバイトするとは。相当無理してるぞ。」
《彼女、このコンビニのトップクラスのバイト。シフト、簡単に変更できない。だんまり。》
「お兄ちゃん。とうとうここに来てしまったね。パンドラの箱とお兄ちゃんのマル秘PCフォルダは開けてはならないんだけど。」
「オレのはちげーだろ。いや違わないけど。それより桃羅のバイト先がこんなところだったとは。コンビニでバイトと聞いていたから安心していたんだけど。ここはオトナの階段を踏み外していないか。学校も認めないだろう。」
「それを言うならコドモの階段踏み外しだよ。桃羅は教師免許皆伝なんだから、これぐらいは大丈夫なんだよ。ここは、モモがどうしたらお兄ちゃんがモモパンチラに萌えるかを研究するラボでもあるんだよ。だから店のコンセプトはパンチラボっていうわけ。」
 大悟との会話を進めながらも、桃羅はチラ見せを繰り返し、すでに本日何度もレジに並んでいるリピーター達を機械的に処理している。リピーターたちの財布の中身が心配である。
ヒョロリとして、メガネをかけた高校生くらいの男子が人目を気にしつつ、いちばん奥のレジに近づいて、箱を差し出した。一方、店員は客が来たことに気づいたが、視線はまったく合わせていかなった。
ヒョロリ男子は、恐る恐る声を出した。でも目はツンツン期待なのか、実に生き生きしている。
次に、ヒョロリ男子は箱をレジに差し出すが、店員は見向きもしない。するとヒョロリ男子はもうひとつの品物を出してきた。
「これも合わせて買いたいのですが。」
丸い物体。饅頭である。
《キャ―!饅頭コワい!》
大悲鳴をあげたのは店員楡浬。地獄のウサミミに共通するトラウマである。ウサミミ族は桃太郎の侵略以来、吉備団子を恐れるあまり、同種の食べ物を忌み嫌うようになったのである。楡浬は、大の苦手の饅頭から視線を避けるため、間髪を入れずに楡浬の両足が天を貫いた。結果、パンチラではなく、パンツが全開こんにちは状態となった。
「きゃああああ~!」
一瞬あっけにとられていたヒョロリ男子だったが、次の瞬間、猛烈なガッツポーズを披露した。
「生きてて、良かった!こんな素晴らしい光景を目にできた。眼福なんて生易しいものじゃない。生涯、この瞬間に起きた現象を忘れることはない。この眼球をオークションに出したら、ピカソにも勝てる!はああああ~。」
ヒョロリ男子は、妖怪の一反木綿のように、萎えて果てた。
他の行列は沈黙していたが、ヒョロリ男子の前にいるユリの光景を見た瞬間、全員がフリーズして、数秒後、雪解けした行列は楡浬の方に完全シフトした。
並んだ男子は、口々に『神レジだ!』というフレーズを発しながら、我先に饅頭を手にしていた。饅頭はすぐに無くなり、大福など同じような丸い和菓子を手にしている。当然、空気入り箱も持ってレジに並んでいる。
楡浬はその行列の男子に対して、饅頭が目に入る都度、逆立ちをして、店内は『早く順番回せ!』という怒号が飛び交う戦場と化した。
「またルール違反してるね。ここはパンチラボであって、パンモロはダメなんだけど。」
「仕方ないでしょ。からだが勝手に反応するんだから。不可抗力なのよ。」
「楡浬じゃないか。あいつは家から出てはダメじゃないか。」
「お兄ちゃん。ここは温度管理がしっかりできてるから家で静養しているのと同じ環境だよ。働かざるもの食うべからずだよ。愛人二号饅頭からもしっかり家賃と生活費を徴収するのが大家の務めだよ。アイドルはトイレに行かないというのはただの都市伝説なんだから。」
「よくわからないロジックだが。楡浬、あまり無理するなよ。」
「し、仕事中に声かけるんじゃないわよ。そ、それにこっち見ないでよね。すごく恥ずかしいんだからね。」
「そんな規格外欲情ポーズを自分でやってるんだろうが。」
「エロサイトの客引きフレーズのような表現しないでよ。あれはアタシの意思じゃないわ。パ、パンチラしようとしたら、それ以上になってしまうのよ。何かの呪いかもしれないわ。絶世の美少女は世界中の羨望と恨み妬みを買っているからね。」
「ほんとかよ。それより、どうしてこんなところが地獄への通用口になってるんだ?」
「見ての通り、このパンチラボにはあまたの魑魅魍魎、いや不健全な男子がいるわ。大抵は女子に声掛けすらできない、非リア充男子。日夜、三次元造形物限定の妄想に耽ることを主食とする産業廃棄物よ。自宅警備員の彼らが、偏思考を暴走させる唯一の日の当たる場所。ここには機械では作り出すことのできない負の、それも絶対零度の精神エネルギーが充満して爆発寸前なの。その超絶マイナスエネルギーが地獄と人間界を繋いでいるのよ。」
「そうなのか。ゴミ以下の腐った男子たちが思わぬところで役立っているわけだ。」
「腐と言ってもその男子たちとアタシの腐とは異次元なんだからねっ。」
「たとえ次元が違ったとしても、どちらもまっすぐな道には見えないがな。」
「ほっときなさいよ。大悟はマイナスエネルギーには荷担していないから安心して。地獄では大悟は、いちおう、アタシの許嫁というリア充の中でもトップクラスにランクされているわ。」
「はあ?そんな実感はないがなあ。それに地獄ではリア充ランキングなんてのがあるんだ?」
「それは捨て置きなさい。アタシには迷惑千万なんだから。とにかくここから先は人間にとっては真の地獄。気をつけてね。」
「わかってるよ。」
《大悟。お腹すいただろう。これ、食べる。だんまり、にんまり。》
言葉だけがにやけた騙流が大悟に差し出したものは饅頭。
「きゃあああ!饅頭コワい!」
楡浬が体操選手のように宙を舞う。大悟に当たっていたLED光を遮る白き繊維。大悟は、顔を傾けて如何にも不機嫌そうなウサギの目撃者となり、そのままコンビニの床とにらめっこした。
「ちょっと、大悟。起きなさいよ。」
《まる。このまま、宇佐鬼大悟、地獄へ道連れする。だんまり等。》