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半分夢幻の副作用

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                   ◇

 梨乃は、今年二十五歳になるが、本人はまだ二十歳くらいの心境の女の子で、メルヘンっぽい話が好きな普通の女の子であった。
 ただ、それだけなら普通の女の子なのだが、悪趣味なところもある。特に小説を読むのが好きなのはいいのだが、いつもラストから読むくせがついてしまっていた。
 最初の少しを読んでから、ラストに行ってしまうのは、小説を読み始めたきっかけがミステリーだったことから由来する。
 しかも、そのほとんどが二時間ドラマなどでテレビ化されたものを読むので、結果として、ストーリーを知っていて読むことになる。しかし、テレビ化した内容は、脚本家の性格からか、若干内容に違いがあったりして、小説を頭から読み込んでいく気にはなれなかった。まず、最初にラストを見ることから始めて、途中をどのように変えていくかということに目を向けてみると、結構小説を違った視点から見ることができて、楽しいと思うようになっていた。
 それがくせになってしまったことで、他の小説を読む時も、ラストを見ないでは気が済まなくなっていた。元々が気の短い方で、最初に結論を知ってしまいたいという性格でもあったことで、梨乃は他の人と小説の読み方が違っていることを分かっていたが、
――人それぞれに合った読み方をすればいいんだ――
 と、考えるようになっていた。
 小説を読むようになったのが、中学生の頃からだった。最初に読み始める小説がミステリーというのは、女の子としては珍しいのかも知れないが、それも父親がミステリーが好きだったことから影響している。
 普段の平日は仕事が忙しく、なかなか早く帰ってこれない父だったが、土曜日の夜の二時間サスペンスドラマは、毎週楽しみにしていた。
 その日は夕食の時間を家族で過ごし、お風呂にゆっくり入ってから、父はリビングのテレビをいつものようにサスペンス劇場に変える。それは当たり前のごとくであり、家族全員の一致した時間の過ごし方だった。
 中学生の梨乃は、父の隣に座り、一緒に見ている。高校生の兄は、一緒に見る日もあれば、部活で遅い日には見ることができない。それでも家にいる時は、家族四人が揃ってテレビを見る唯一の時間だった。
 母も、それまでに家事の大方を済ませて、テレビの時間に備えている。土曜の夜は、梨乃の家では一大イベントの始まりであった。
 テーマソングが流れると、最初に固唾を飲むのはやはり父だった。父が緊張したのに連鎖するように、まず梨乃が緊張し、その次に母親、そして最後に兄というのが、恒例であった。
 テーマソングは中学生の梨乃にはセンセーショナルな感じがあった。毎回同じものを見ているはずなのに、何度見ても飽きない。それは家族の皆も固唾を飲むことで、同じ感覚になっているに違いない。
 梨乃は、初めて見るストーリーに次第に釘付けになっていく。最初の方は淡々と見ているだけで、決して楽しいとも、興奮を感じることもない。どちらかというと、
――早く展開が変わらないかな?
 と、先の展開に希望を持つのが正直な気持ちだった。
 ドラマはほとんどがシリーズものであるため、一人ないし二人の主人公が、中心に展開していくのだ。ただ、プロローグのところで、物語の核心を見せるようなところが一分弱ほど流れるが、それが頭に残ってしまっている時は、ストーリーに素直に入って行けないことがあり、梨乃はそんな時、父の表情が気になってしまう。ほとんど表情を変えることもなくゆったりとした表情でテレビを見ている父の姿を見ている方が、梨乃には安心できる時があるくらいだった。
 それでも、次第にストーリーが展開していく中で、最初のシーンがシンクロされると、梨乃もテレビに集中してしまう。
 ここまで来ると、ストーリーに嵌ってしまって、最初の頃の焦れったさを忘れてしまったかのようにテレビから目が離せなくなってくる。いよいよクライマックスが近づいてきた。
 梨乃の中でも、謎解きと犯人探しが始まっていた。最初の頃はほとんど当たらなかったが、途中からは分かるようになってきた。
――パターンが大体分かってきたんだわ――
 数種類のパターンがあり、ストーリー展開をそのパターンに当てはめていけば、大体が分かってくるようになる。サスペンス劇場を見る人は、パターンが分かっていても、別に気にすることはない。最初から謎解きをすべてにテレビを見ている人には物足りないかも知れないが、ストーリーとして見ている分には、さほど退屈はしない。特に梨乃の家庭のように、茶の間の時間として見ている人にとっては、変にストーリーが歪な方が違和感があるに違いない。テレビを製作する方としても、そちらの方を重視しているに違いない。
 梨乃は、テレビに集中している時の父親の顔を見るのが好きだった。普段はあまり顔を合わせることのない父の顔は、普段のイメージしている表情としては、いつも眉間に皺を寄せ、難しい顔をしているのだとばかり思っていたのだが、テレビを見ている父は、純粋にサスペンスドラマを楽しんでいる。時々難しい顔になるが、それは謎解きをしている顔であって、それも楽しんでいる顔の一つである。微笑ましく思えるほどで、思わずおかしくて笑ってしまいそうになるくらいだった。
 兄や、母の顔はあまり見ようとは思わない。普段から見ている顔なので見ても同じではないかと思うからであるが、普段から見ている人の顔を、改めて見つめてしまい、目が合ってしまった時のバツの悪さは、あまり想像したくないものだった。
 サスペンスドラマの二時間というのは、最初の一時間と、後の一時間ではかなり違っている。前半は淡々と流れているくせに、焦れったさを感じ、後半は時間があっという間だったような気がするのに、思い返してみて感じるのは、後半の一時間の方ばかりだった。
 いつも見ていて、そのことを感じていた。考えているうちに、その考えが当たり前のように感じられるようになり、気が付けば、自分の考えの根幹が、似たようなものではないかと思うようになっていた。
 別にいつも同じ考えというわけではないのだが、気が付けば、同じような考え方をしている。その考えを最初に感じたのが、家族でテレビを見ている時の二時間という時間の考え方の配分だったのだ。
 見終わってから、誰もテレビの内容について話そうとする人はいない。見終わった瞬間から、それぞれが自分のことをし始める。父は新聞を開き、母はテーブルの上のものを片づけ始める。兄はそそくさと自分の部屋に入ってしまうが、誰もが無口で当たり前のことのように行動している。
――誰も寂しさを感じないのかしら?
 と、思っている当の梨乃も、皆の態度を一目見渡しただけで、そのままお風呂に入りに行くという行動は、それこそいつものパターンである。
――皆、それぞれに不自然さは感じているのかも知れないわ――
 自分の行動のアッサリしていることに驚きながら、そう感じている自分が一番不自然なのかも知れないと思った。
作品名:半分夢幻の副作用 作家名:森本晃次