こころのこえ 探偵奇談13
「郁ちゃん、瑞にもお礼言いたい」
「え?」
莉子が満面の笑みでそう言った。聞けば、祈祷師のじいさんが来たときそばにいた青年が、瑞に頼まれて莉子を助けに来たと告げたらしい。きっと颯馬だ。
「莉子ちゃんが元気になったよって言ったら、きっとすぐ会いに来てくれるよ」
「本当に?やったあ!」
嬉しそうだ。
「けがはもう大丈夫かな」
莉子が少し声のトーンを落として言った。
「お医者さんに診てもらって、もう平気って言ってたよ」
弓を引くことにも支障はないようで、彼はいつも通りだ。その姿に、郁は心の底から安堵した。
「…瑞が怪我したとき、郁ちゃん泣いてた」
ぽつんと莉子が言い、郁はあのときのことを思い出す。
「郁ちゃんは、瑞のこと好きなんだね」
にっこり笑ってそう告げられ、郁は胸が詰まった。
「…うん、好きなの」
あのとき、言えなかった。
一之瀬の好きなやつって誰?
言ったら全部変わってしまうから。だけどもう、隠しきれないくらいに気持ちが育ってしまった。いつまでごまかせるだろう。いつまで秘めておけるだろう。
作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白