こころのこえ 探偵奇談13
「郁ちゃんの為なら喜んで。俺を頼ってくれて嬉しい」
そんなことを言うものだから、郁は困ってしまう。瑞が不審そうに眉根を寄せていて、なんだかますます困ってしまう!
「なんでも言ってね。郁ちゃん。もっと頼ってくれていいんだよ?」
「そ、そういうのいいから!」
「なにこの変な空気。おまえどうしたの」
「いやあ瑞くん、実は俺ね、郁ちゃんにね、」
「颯馬くん黙って!さっさと行って!」
「ゴフゥッ!」
伊吹「(すげえ…腹パン入った…)」
にこやかに手を振って颯馬が去る。
「あいつに任せときゃ大丈夫だよ」
伊吹が励ますようにそう言ってくれた。どんな作戦かは知らないけれど、伊吹が言うのなら大丈夫だろう。彼が颯馬のじいちゃんの作戦を聞かせてくれている間も、郁は伊吹の隣の瑞を意識してしまって仕方がない。頬の絆創膏、怪我をした彼に思わず抱き付いたのは、彼が死んでいたかもしれなかったという恐怖とパニックからだったのだが、思い出しても恥ずかしくて、どうしていいかわからなくなる。
あのとき、ぎゅっと抱き返してくれた腕の感触が、甘い香水の香りが忘れられなくて、何度も何度も思い出している。あったかい体温も、耳元で大丈夫と言ってくれた優しい声も。
「一之瀬、わかったか?」
「ははは、はいっ!」
「…聞いてた?」
郁は顔を両手で覆い、熱のある頬を冷えた両手で冷ます。
(…だめだ、ぽーっとしちゃう…しっかりしなきゃ…)
あの直後。瑞に問われた言葉の唐突さとその意味が、いまだに理解できない。
作品名:こころのこえ 探偵奇談13 作家名:ひなた眞白