遅くない、スタートライン 第4部 第1話 11/2更新
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あっくんに和菓子屋の紙袋を持たせた。
「きょうはママのスィーツじゃないよね」と俺に聞いた。
「うん。ほら近くまで来ただろう!春休みに入ってまだジィジ達のとこ行ってなかったから」
「そーだね!あぁ…きょうかいたのをみせたいな。パパ!もってくれる?」
「はぁい!」と手を挙げた。あっくんはそれを見て笑った。ホント…よく笑うよ。毎日(#^.^#)
あっくんは俺の顔を見た。俺はうなづいた。あっくんはノックを4回して…
「ジィジ!バァバ!はいっていい?」と言った。
前妻の彩華には先に施設に行って、ジィジ達と話をしろと言った。ジィジ達も約4年ぶりに娘に逢うんだ。俺達が先に行ったら、ジィジは感情的になってしまうかもしれない。体に障ってはいけないと思ったから、バァバには電話して、彩華に逢ったことと、俺達は遅れて施設に行くと伝えた。
あっくんは、ジィジとバァバの顔を見ながらいつもの笑顔で話し出した。俺は目線で彩華を探した。バァバはそれがわかったみたいで、あっくんに見えないように指をさした。
「あっくん!また大きくなったな」ジィジはあっくんの頭をなでながら言った。あっくんの頭をなでながら、平静を保とうとしているジィジだった。バァバも泣いたのか…少し目が赤かった。
ジィジは俺の顔を見た。俺はうなづいた…
「あのなぁ…あっくん。今日はあっくんにあいたいって人が来てるんだ。あってくれるか?」
「あっくん…ジィジとバァバのおねがいきいてくれる?」バァバはあっくんの手を握った。
当のあっくんは、俺の顔を見た。どうしたらいいんだ?って顔してるわ。
「ジィジとバァバのおねがいだ。あえば?」俺はそう言った。
ジィジのベッドのそばのパーテーションから、彩華が出てきた。彩華は初回はフェンス越しであっくんを見て、それからは遠目でしか、あっくんを見ていない。間近で見たのはこれが初めてだろう。あっくんは覚えているのだろうか?2歳前にいなくなったママを!バァバ達が写真を見せていたのだろうか?
「ママ…」とつぶやいた。彩華の目から涙が溢れ、その涙は床に落ちた。
「パパ…あやかママだね」俺の顔を見て言ったあっくんだ。俺はうなづいた…
彩華はあっくんに触れたいみたいだが、手も震えていて思うように動かないみたいだ。
「あっくん…涙止まらなかったらどーすんだっけ?」俺はあっくんのリュックサックを指さした。
あっくんは、リュックサックに入っていたハンドタオルを取り出した。
「いいよ。つかっても」と彩華の手に渡した。
そのハンドタオルは、美裕が幼稚舎の入園の時に、1枚ずつ手縫いで【ふくだあきと】とタグをつけた。ハンドタオルだけじゃない。あっくんが着ている服や下着…靴など各アイテムにタグを縫いつけている。リュックサックにももちろんタグがついている。彩華はそのアイテムを見ていたな。彩華はそういう事はしなかった。
「ありがとう。あきとのものは全部なまえがついてるの?」と彩華が聞いた。
「うん。ママがぁ…あ、みぃちゃんママがつけてくれたの。ほらこれも」
あっくんはキャップを脱いで、彩華にタグを見せた。タグにはもちろん名前入りだが、あっくんの好きなくまキャラが縫いつけられていた。同じ帽子を持つ子もいるからと、美裕がつけたんだ。
彩華は目にハンドタオルを当てながら、あっくんに聞いた。
「ごめんね…ずっとあえなくて。あきと…ママのおはなし聞いてくれる?」
俺は信号待ちの時に後ろのリアシートを見た。あっくんは例のごとく、チャイルドシートに座って爆睡中だ。あっくんだって疲れるだろう。今日は午前中から出てきて、美裕が持たせたお弁当を食べて、お絵かき教室の後にあきやくん達と遊び、ジィジ達の施設に来て産みの母親に逢ったんだ。美裕は育ての親だが、産みの母親は彩華には変わりないからさ。久しぶりに逢った産みの母親の彩華に色々と聞かれた。俺はなるべく口を出さないようにした。ジィジ達も同じだ。あっくんは…産みの母親に少し慣れたのか、あのあっくんスマイルで受け答えした。
美裕はやはり心配だったのだろう。帰ったら玄関の前にいた。
「あっくんは?」と最初に聞いたもんな。俺は目線でリアシートを見た。
あっくんは、また口を開けて寝ていた。その寝顔を見た美裕は…
「ホント…この寝顔はパパそっくりだな。いつから寝てるの?」
「施設のパーキング出た時から!あっくん疲れたみたいだ」
俺はリアシートで寝ているあっくんを、ダッコし頭を肩につけさせた。
「こいつさ…言ったよ。彩華に」
彩華は今…再婚相手と別居しているそうだ。国際結婚は難しいよな!価値観や金銭感覚ももちろん、育った環境も違うしさ。段々と夫婦間にミゾができてしまい、子供が産まれてからまたミゾが広がったそうだ。義両親の過干渉に親離れしていな夫に、産まれた子供への義両親の過干渉…あげればいくつもあると言った。そしてこう言った。
「私が日本でやってきたことよね。それを海外でしっぺ返しされちゃった」と…
この言葉に年老いた両親もまたうなだれてしまった。でも彩華とジィジ達だけが悪いわけじゃない。それはわかってるさ。俺だって…悪いところは一杯ある。美裕と結婚してわかった事も一杯あるんだ。
美裕はソファに寝かされた、あっくんに毛布をかけた。
「ボクはパパとママがいるから。ママもあかちゃんのところに帰らなきゃって…言ったんだ」
「あっくんがぁ?」俺はうなづいた。
「あっくんの言葉聞いた彩華はさ、号泣だよ。5歳の子供に言われたんだ…ジィジ達もさ泣いてた。ジィジは同じ過ちをまたするのか、再婚相手には頭を下げて謝れ!国に帰れって言った」
「そう…でもうちのお兄ちゃんエライねぇ。そんなこと言えるなんて」
美裕はあっくんの頭を愛おしそうになでた。俺もなでながら…
「うん。俺達大人は建て前があってなかなか本音言えない時あるじゃないか。飾った言葉でパターン化された形式通り会話をする事あるだろう。でもあっくんの言葉の威力はすごかったな。あの気高い彩華お嬢が、あっくんを抱きしめて泣いてた。泣いて泣いて、御自慢の長いまつげのマスカラが取れてパンダみたいだった。それ見て、あっくんがさ…笑ってさ。笑いながら…彩華の目をハンドタオルで拭いたんだ。あぁ…バァバが漂白して洗っておきますからって言ってた」
「そう…これで彩華さんも前を向けたらいいね。あっくんが戻ってきてくれてよかったぁ!起きたらチューしてあげるぅ。あっくんの好きなバケツプリンも焼いたし」
「へぇ…あっくんだけ?俺もチューしてくんないの?バケツプリンも食べたいな」
「はいはい。すぐスネるんだから!チューはこれでいい?」
美裕は俺の唇に軽くキスをしてくれた。俺は久しぶりの唇キスにちょっと顔が赤くなって、それを美裕が笑った。
「はいはい!アシカクラスのMASATOパパ!それ以上は産後ね」と笑って言った美裕だ。
作品名:遅くない、スタートライン 第4部 第1話 11/2更新 作家名:楓 美風