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真・平和立国

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 100mまで接近しても、地上では略奪を止めようとしない。隊長機は距離を保ったままゆっくりと所在無げに旋回を始めた。近付いても威嚇にならない。完全に舐められている。銃身を真下に下げたまま射手が乾いた唇を噛み締めている。彼がいちばん悔しいに違いない、武器を任されながらもそれを向けることを許されていないからだ。機体側面の7割を占める大型のスライドドアを開け放って床に座り、足を機外のステップに乗せる射手。その背中越しの景色に古川はシャッターを切り続ける。警察権の行使を認められている派遣隊の建前からすれば、目の前で行われている略奪行為を取り締まることが可能な筈だが、交戦行為と捉えかねない、そう司令部が判断したのだろう。さらに要救助者がいるというのにこの体たらくだ。負傷していたら時間との勝負であり、さらに捕らわれたら助けようがない。
−なぜこれほどまでに日本は当たり前のことが出来ないんだ−
 古川も機内の悔しさの渦に巻き込まれる、スコープで狙いをつけるように憎しみを込めてファインダーに捉えたゲリラにシャッターを切る。これまで様々な戦場で取材をしてきたが、それは日本人が足を踏み入れない世界での話だった。しかし今は、今はレンズの先に同胞の危機が迫っている。いつの間にか日本はこんなところまできてしまった。そして今、平和を誤解してきた戦後日本の非常識が形となって目の前に広がっている。
 ゲリラが銃撃してこないためか隊長機は、旋回を止めてホバリングに移る。ペダルを踏んでその場で右回りに機体を回転させた隊長は自らの座る機長席のある右側を相手に向けて蟹歩きのように機体を真横に移動させる。ドアガンのある側面を相手に向けながら間合いを詰めていく。
 射手の背中越しに近付く景色に古川は異変を感じた。輸送機の搬出口(ランプ)に人だかりが出来、その隙間から濃緑色の何かが引きずり出されているのが見える。あれは−空自のパイロットスーツ−。古川が声を失ったと同時に、英語の喚き声が聞こえ、伸びた砂漠迷彩の太い腕に射手が機内へ引きずり込まれる。
 一瞬のことだった。視界の射手が砂漠迷彩の大柄な男に変わると同時にドアガンが吠えた。吠えて吠えまくった。「いつまで黙って見てるんだ。早く助けろ。」という英語の喚き声が混じる。大きな背中の向こうで、ゲリラが倒れ、民間人が逃げまどう。
「司令部、こちらピースピッカー01。武元一尉を発見。只今から救出する。現在ゲリラと交戦状態。応援はまだか。送れ。」
「こちら司令部、米軍のアパッチとヘリボーン部隊がまもなくそちらへ到着する。戦闘を中止せよ。直ちに戦闘を中止せよ。」
 抑揚のない冷静な司令部の無線は、戦闘の中止のみを強調する。
「無理だろ。」
 と吐き捨てた隊長は司令部の無線に応答せず、隊内無線に切り替えた。
「全機へ、当機と02は着陸。武元一尉の救出を行う。03と04は上空で援護。全火器の使用を許可。送れ」
 もう誰にも止められない。ここで中止したら、間違いなく武元一尉を救出することはできない。だが、世界の非常識ともいえるお人好しで優柔不断な派遣法のためにこの隊長は罰せられることだろう。全て現場の責任だ。
 各機は了解の応答と同時に行動を開始する。もう誰も止められない。
着地とともに大柄、小柄の砂漠迷彩が走り出す。担架を持った隊員を含めた小柄の集団は逃げ回る民間人には目もくれずに横たわる武元一尉に向かい、大柄の集団−アメリカ兵−は、銃を構えてその周囲を警戒する。
 担架に移される武元一尉の顔色は、既に血の気を失っており、激しいGの中でも見張りを行うために鍛え抜かれた元戦闘機乗り太い首が不自然な向きに曲がっている。
 黙祷を捧げる隊員に混じって頭を垂れた古川は、断続的に発生した発砲音に黙祷を破られた。決意を新たにレンズを向けた先にはゲリラの集団が見える。乾いたAK74の発砲音に混じる低い発砲音の主は、トヨタのピックアップトラックに据え付けられた軽機関銃のものだ。驚くほど世界の隅々まで売られた日本製品は、どこで出会っても当たり前のようにきちんと働く。
 急ぎ担架を収容するピースピッカー01、02の隊員、そして古川の頭上を威圧的な重低音の風切り音を響かせながらUH−1J2機が横一列になってゲリラへ向かう。射撃中の左右両サイドのドアガンからは、空薬莢が雨のように降っている。
 空からの攻撃という優位に立つ自衛隊だが、軽武装のため、ゲリラの勢いは衰えない。ここでも法整備の非常識が露見される。平和日本の非常識と戦場の常識の差を「埋める」ために隊員の命が生贄になる。−ここまでしなければこの国はまともになれないのだろうか、−
 レンズを向ける古川の前方に地響きが起き、一瞬視界が遮られる。砂が振り掛る。RPGロケット砲だ。たかがゲリラだが皮肉にも火力は自衛隊よりも遥かに上だ。
 ゲリラの射程距離に入りつつある。早く離陸しなければヘリがやられてしまう。
 隊員と武元一尉の担架を収容したピースピッカー01が回転を上げて離陸していく。
 古川は出発の時にピースピッカー01に飛び乗った際に間に合わずピースピッカー02に乗って追って来た広報官と合流しピースピッカー02に乗る事になっていた。そのピースピッカー02にも敵弾が届き始める。二度目のRPGが着弾して砂だらけの地面に伏せた古川に広報官が覆い被さって彼を守る。直後に連続した爆発音が地鳴りと共に響く。
−万事休す。か−
 と思った時、古川の上から広報官の重さが抜ける。
「間に合った。古川さん。起きて下さい。」
 爆音で圧迫され少しずつ感覚が戻って来た耳にはUH−1Jとは異なったヘリの音が響き、視界には砂嵐のように霞んだ空といくつもの黒煙、そして米軍のAH−64Dアパッチ戦闘ヘリが乱舞する姿が見える。その手前にはUH−60Aブラックホークが次々と着陸して兵員を展開させては離陸し上空の警戒にあたっている。
 展開した米兵は、ためらいも無くヘリが制圧した集落の方へ走って行く。
 いざとなったらここまで徹底しなければならない。という手本を行動で示すかのように米軍の手際は良く、そして敵に付け入る隙は無い。
作品名:真・平和立国 作家名:篠塚飛樹