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真・平和立国

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 輸送機の周辺は瞬く間に制圧された。古川は、検証のために後発部隊で送りこまれる整備隊や調査隊への現状報告と手配に忙しい広報官の目盗んで機内に立ち入った。砂が入り込んだ機内には荷物や配線、機材が散乱し、前方のコックピットは潰れている。いちばん奥へと進んだ古川の足が岩山に押し出されたコックピットのパネルを踏んだ。金属が擦れる音に足元を見た古川の視界の隅に、一枚の写真がとまった。拾い上げた彼は、目頭が熱くなるのを覚えた。小学生ぐらいの男の子が敬礼している写真だ。あどけなさの中にも強い意志を示した瞳。左手には緑とベージュの迷彩で塗装された三菱F−1支援戦闘機の模型を持っている。この機体の機長、武元一尉の息子に違いない。武元は、かつてF−1支援戦闘機のパイロットだった。しかも凄腕の支援戦闘機乗りだった。軍事関係、特に飛行機を得意とする古川も取材をした事がある。支援戦闘機というのは、世界に遠慮した日本独特の名称で戦闘攻撃機の事だ。航空自衛隊全部隊のエリート達が競い合う戦技競技会で武元は爆弾を搭載した身重なF−1支援戦闘機を自在に操り迎撃役のF−15戦闘機を返り打ちにしてしまう。
 武元の面影を残した写真の中の瞳が「父を返せ」と訴えているように見える。
 彼の事だ、瀕死の愛機を操り村を避けたに違いない。最後の最後まで、諦めずに。そして衝突の寸前にコックピットから逃れようとしたのだろう。その衝撃か、ゲリラの連中に或いは引きずりだされた際に写真を落としたのだろう。
「足りないんだ。」
 言葉が古川の口をつく。
 そう、日本政府は覚悟が足りな過ぎるんだ。
 9条のお陰で平和を維持できた−「戦争をしない」と誓い、言い続ければ平和を維持できる−と平和憲法を盲信してきた人々を納得させるための覚悟が足りないから、この戦場へ「戦場ではない」と言って部隊を派遣するしかないのだ。覚悟が足りないから「戦場ではない」と誤魔化し、その前提で法制化された非常識な装備や行動基準が現場を苦しませてきたのではないか。そして今、初の犠牲者を出してしまった。
 彼は、平和憲法の犠牲になったのではないか、日本とは縁もゆかりもないこの土地で、自衛隊員である彼が命を掛けて守らなければならないものなどあったのだろうか、日米安保条約を建前とした良好な日米関係−アメリカの御機嫌とり−のためだとしたら、浮かばれない。そもそも日米安保条約は「日米双方が日本および極東の平和と安定に協力すること」を規定したものであり、この派遣とは無関係なのだから。そもそもアメリカは国益で動く国だ。まあそれはどこの国も同じだが、大統領の権限が強いだけに、乱暴に言えば票と人気。国益と国益を伴う正義で左右される。そんな国にどこまで追従するのか。この派遣も裏には資源が絡んでいる。親米政権を立ち上げればアメリカの国益に直結する。
 優しく砂を払った写真の瞳。もう高校生ぐらいに成長しているであろうこの子はどう思うだろうか
−伝えなければならないことは山ほどある−
 古川は決意を新たに写真を胸ポケットに入れた。
 
作品名:真・平和立国 作家名:篠塚飛樹